Chapter・1 運命の始まりのメロディー

どんどん紙がくすむ。(えが)いても、(えが)いても、目の前の臨場感が出ない。

こんなに綺麗なのに。4Bの鉛筆一本では上手くできない。描けば描くほど黒ずんでしまう。

黒猫がしっぽを揺らしながら、チラリとこちらを見ては、また目を閉じるのが視界に入った。

「だめだ。少し落ち着こう」

目を閉じてみる。深呼吸をして、そっと目を開ける。

「この世界が、モノクロ写真になったら……」

突然、そんな考えが降って来た。鉛筆が軽くなった。鉛筆が、軽快なステップを踏みながら踊り出す。今度のメロディーは、軽やかで爽やかで。スケッチブックのくすみが、良い風合いになる。

「これかな? でも、こんなふうにも見えるな」

黒猫はいつの間にか、鉛筆のステップを目で追っていた。鉛筆のダンスは、軽やかなステップと共に終演を迎える。

暖かい日差しのシャワーが、鉛筆の足跡をきらめかせる。

「どうかな?」

黒猫は、何も言わずに目を細めた。満足げに見えるのは、気のせいかもしれない。

絵を(えが)き切ると、私は急激な睡魔に襲われた。瞼が重い。日差しのシャワーが眠りを誘う。

もっと景色を見ていたいのに。私の瞼は磁石のように寄っていく。

睡魔に勝てず、私の視界は、蜃気楼のように揺らいでいってしまった。