終活

最後のメールに私は返信をしなかった。

以前に勤務していた病院ですでに看護部長だった私は部長経験が少ないこともあり、業務をこなすのが精一杯で娘の声を聴く余裕はなかった。

一緒に死んであげれば良かった。今となっては悔やむだけだ。それから2年間、携帯は持てなかった。

<件名>あれから1週間(ことり)

あれから1週間、お逢いしてから2~3日は夢を見ている感じでした。

もう、相原さんとお逢いすることなどないだろうと思っていたので、欣喜雀躍(きんきじゃくやく)しています。ちょっと冷静にならなくてはと自分に言い聞かせても、相原さんからのメールを頂くと心が弾みます。

いい歳をしてバカだなぁと思います。

「終活」を人生の締めくくりと考えたら相原さんと楽しくお食事やお話しが出来る関係でありたいです。

相原さんが言う理由の【2】に関しては成り行きかな。

何しろ、もう長い間バージンロードですから……賞味期限切れしていますし。

<件名>Re:あれから1週間(てつや)

私も同じです。

「春」を感じています。

昔には言えなかったことも、この歳になったから言えることもあります。

想いは同じだと分かって嬉しいよ。

理由【2】に関しては早急に実現したいなぁ、いやらしい意味ではなくて、ことりの懐かしい温かさを感じたいんだ。

やっぱり、下心ありだな。

でも、昔ほど体力ないからなぁ(笑)。

まだ1週間しか経ってないのに、早急に【2】を希望してくるのはいかがなものか、と思う反面、もしそうなったら、などと想像している自分自身もいかがなものだろう。

1週間しか経っていない、というよりもっと長い時間に感じられる。彼と再会してから一日一日の時間が長い。多分2回目に逢えば、すぐに一線を越えて、【2】の関係になってしまうのは確かだ。但し、私の身体の受け入れが可能であれば、だろうけど……。

私たちは45年前のお互いの面影を見ながら離れていた時間を取り戻すために最後の恋に走り出した。私は今の彼のことを知らない。彼も同様だろう、しかし45年の想いを確かめるために、もう一度抱き合いたいと思っている。

交換日記をしていたあの頃のように……。