<件名>【2】の準備

いきなり【2】と言われても、心の準備と身体の準備に多少時間がかかりますので、暫くお待ち願えますでしょうか。

1週間前、あなたとお逢いした時、私は精一杯のお洒落をして行きました。

普段は普通のおばちゃんです。昔の私がブスだったように今もブスのままです。

その上、中年のおばちゃん独特の下腹ポッコリ、バストは貧乳なのに垂れてしまって、とてもお見せ出来るものではありません。

それにいきなりゴールよりも、それまでのプロセスを楽しみたいというのが「女心」です。

若い頃のあなたを知っていても今の徹也さんをもっと知ってからじゃないと受け入れられないものです。

ごめんなさい。

<件名>Re:【2】の準備

私もオッサンになりました。お腹はダイエットでへこみましたが、髪の毛も薄くなりました(笑)。

この歳になるとヤリたいことが目的ではなく、癒しが優先になりますね。

いきなり【2】を求めるのではなくプロセスは大事ですよね。

ことりのことをもっと知りたいし、【2】だけが目的ではなく、良い関係で付き合いたいと思っているよ。

45年前に付き合いはじめた頃、彼は「ことりはブスだ」と失礼なことをよく言っていた。「ブスだけれど俺の前だけで見せる可愛い顔が好きなんや」と貶けなしているのか、誉めているのか、彼の精一杯の愛情表現だったのかもしれない。

16歳と17歳の私たちは「性」のことはまだよくわからない高校生だった。

クリスマスイブの夜、部活でまたもや帰りが遅くなった。彼はバイクではなく、電車で家まで送ってくれた。電車を降りて家路に向かう途中、急に左膝関節の痛みを訴えた。

「歩ける?」

「うん、ちょっと痛い、休憩したら治るかも」と言うので、すぐそばの公園のベンチに一緒に座った。私は彼の左膝をさすってあげた。

最近はクリスマスに雪が降ることはないが、45年前のホワイトクリスマスは珍しくなかった。

「ねぇ、ねぇ、雪!」

「ほんまや、積もらへんかな」

二人ともテンションが上がってしまい薄っすら積もった雪の公園ではしゃぎまくった。

「ねぇ、足痛くないの?」

と彼の顔を覗き込むと、そのまま彼の顔が私の顔に重なってきた。彼の柔らかい唇がそっと私の唇に触れた。生まれて初めてのキスはふんわりと雲に包み込まれたような感触だった。

その晩、私の心臓は高鳴りすぎて眠れなかった。足が痛かったのは本当だったのだろうか。

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