【前回の記事を読む】眼鏡で肩こりや頭痛が治る⁉ 50年以上眼鏡に携わる著者が解説!

第1部 メガネの効用

第一章 眼と予防医学

1 眼が身体の不調を引き起こすことを突き止めた人々

「神経衰弱眼因説とメガネによる治療」への論陣を張ったのは前田博士ばかりではなく、中村辰之助博士がおられます。前田氏が調節性眼精疲労を神経衰弱の主な原因と主張したのに対し、中村氏は、潜伏性斜視(斜位)が神経衰弱の主な原因であると主張しました。

斜位眼が両眼単一視のために行なう不断の視線(眼位)の修正は、眼筋の運動負担になるため、それを軽減するためにプリズムメガネが必要なことを説きました。場合によっては手術が効果的な場合もあるという筋性眼精疲労説を説きました。 

さらに角膜の病である瀰漫(びまん)性角膜表層炎が神経衰弱の原因であるとして、その角膜炎へ点眼薬治療を行うことにより、あらゆる病気が治癒すると主張した西村美亀次郎博士がおられます。『通俗神経衰弱病者の参考に』や『伝染による以外の後天性の総ての病の根本原因は眼にあり』と題する全四巻の著書があります。自らの説を多くの医師、学者に理解してもらうことに大変苦労されたようです。

日本のメガネ商に、本格的な検眼技術の指導を行い、日本におけるメガネの黎明期に貢献し活躍した人物に、ドクトル小川守三氏がいます。日本人で初めて単身米国に渡り、オプトメトリスト(米国家資格のメガネ調整士)の資格を得て、カナダのブリティッシュコロンビア州で開業していたときに、政治家で医者でもあった後藤新平氏に嘱望されて帰国、東京丸ビルにて東京眼鏡院を開設しました。

多数の検眼関係の著書があり、それらの書物に目を通しますと、「メガネは視力向上のみならず、眼精疲労改善(治療)のためにある」と明確な位置付けをしています(『眼鏡と眼の常識』より)。

次は著者の父です。上津原孝一は生業の眼鏡店業務の中で、頭痛や肩こり、癇癪(かんしゃく)までもが自分が販売したメガネによって改善したことをお客さまに感謝され、さらにドクトル小川守三氏の「眼とメガネ」について話されるラジオ放送を聴いて自分の作ったメガネが疲労に効能があったことを確信し、次第に自信に変わっていきました。

とりわけ遠視、乱視、斜位の三要素が眼精疲労を起こす要因であり、それらの眼に適正なメガネを掛けさせることで意想外な神経症状が改善することを発見しました。過剰な調節と過剰な眼位修正が眼精疲労の原因のほぼ全てであることを見抜き、純粋に眼球運動が引き起こす神経諸症状を「眼因性疲労」と名付けました。

眼科学の眼精疲労の定義には、調節性と筋性と神経性の眼精疲労があり、とりわけ神経衰弱が原因の神経性眼精疲労は大変治療困難とされています。そこで精神的な原因を含む眼精疲労とは一線を画すことにしました。