気づくと、私は森にいた。傍らには艶やかな黒猫が寝ている。冷たい黒さなのに、触ると温かい。撫でるとしっぽが揺れる。猫の傍らには、一冊のスケッチブックと一本の4Bの鉛筆がある。そして、一個の消しゴム。
「ここは一体……? 夢? でも、感触がリアル……」
鉛筆が冷たい。あたりは静寂に包まれている。動く葉が擦れる音すらしない。
目の前には、湖がある。水面は、日差しでキラキラとしている。そして、鉛筆と黒猫のそばには、大きな木がある。日差しのシャワーは暖かい。草木の香りが鼻をくすぐる。そよ風に撫でられながら、視界がまたまどろむ。黒猫が、良い具合の抱き枕になりそうだ。木の根元に腰かけると、思わず眠りそうになる。しかし。
「寝たくない。せっかくのスケッチブックを使いたい。今は描かないと」
なぜか、無性に描かなければいけないような気がした。その感情は、あっという間に私を支配する。がむしゃらに景色とスケッチブックを交互に見る。鉛筆が踊り出す。感情のメロディーに合わせて舞う。描いては消して、消しては描いていく。
「これじゃない……これじゃない! 私の見ている景色はこんなものじゃない!」