そして空港での出来事
最後にもう一度海に出て、シュノーケリングを行った。玲子の赤と白のビキニが眩しい。泳ぎ疲れて沖合にある珊瑚の上に腰かけた。少し右前に座る玲子を見ると丸みのある腰と肩が艶めかしく、形がよく適度な膨らみを持つ胸を一層際立たせていた。背中と腕の産毛の先に形成された小さな水滴が太陽光線で乱反射し、天使のように光り輝いている。
この状況では抱きしめることも許されるのではと思った瞬間……。私の怪しげな思いを察したかのように玲子が振り返って言った。
「何回も青い海で思い切り泳げて気持ち吹っ切れた。これで新しい気持ちで帰れる。色んなことを素直に受け入れることが出来るように……」
「そうか心が広がったんだ。お互いにいい方向に広がったんだ。今度はダムに水をたくさん貯めようか。少しくらい使っても枯れないように」
「ありがとう、真は私と同じ匂いの人。でもあの男のこともあるから分からないか。自信ないな」
言いながら沖合の海を見つめる玲子の目は寂しげだった。
「そうかもしれない。人間の思いなんて時と場合で変わるから。執着せずに諦めることも大事だよ。秋名でもう昔は過去にしたんだろう? 俺も玲子に大島紬着せるように頑張るから」
私は自分に言い聞かせた。
「そうだね。勉強と違って目標に向かって努力しても、人、いや愛には方程式はないから」
勉強は得意だけど玲子と出逢って応用力がない、と改めて思った。
「それが分かって、奄美に来た意味があったと思う。一見、無駄な時間を過ごしたように見えるけど、心を再生するにはそれが必要だから」
「真、それって自分に言ってる」
玲子に心を射抜かれたと思った。
「これからは自分の道は自分で探さないといけない。それを奄美と玲子が教えてくれた」
「悔しいけどあの男と同じこと言うね。もしかして君も逃げるのかな」
玲子のこの言葉を聞いて、私は『俺はもう逃げない』と心に誓ったが言葉には出来なかった。それを察したのか玲子が「真が言ったように私は心に大きなダムを造って、そこに水をいっぱい貯める。そして枯れそうになったらまた奄美に来て一杯にする。奄美には天に太陽、地にサトウキビ、人には黒糖焼酎があるから……」
「玲子、うまいこと言うな。確かに島人と飲む黒糖焼酎は人の心に染みて労わってくれる」
この言葉に二人で笑いハイタッチ。