〈表土50センチ、計12ヘクタール分の土を保存し森の木を移植した若葉台の開発〉
「人間もまた地球の生きている一部であり、母なる地球の肉体をほんの一部でも傷つければ、それはすなわち自分自身を傷つけることにほかならぬ」(『インディアン魂─レイム・ディアー』 リチャード・アードス編、北山耕平訳、河出文庫)。
アメリカインディアンのレイム・ディアーは、こう言っています。地球を傷つけるとは、どういう意味なのでしょうか。緑を守るのは自然への畏怖心から?
日本人も自然、特に森に対して特別な思いをもってきました。いってみれば、田畑はもちろん、野山、川、森、すべての自然に対してのアニミズムに近い感情でしょう。そして森への畏敬の気持ちから、私たちは森の奥に神社を建て信仰の中心としたのでしょうか。自然への畏敬の気持ちから、万物すべてに精霊が宿っていると考えるところは、アメリカインディアンの人々にどこか通じるものがあるようです。
ところで、横浜市北部に位置する若葉台団地も緑が豊富です。
もともと深い森だったところを開発し、造成されたのですが、それにしても、これほどふんだんに緑を残している団地はほかにないのではないでしょうか。深い森だったころの木々が今も団地のあちこちに存在し、あるところでは里山のような景観をつくり出しています。
これはなぜ可能だったのでしょうか。神奈川県住宅供給公社は開発に当たって、自然尊重を掲げ、横浜国立大学の宮脇昭研究室に植生の調査を依頼し、残すエリアや残すための方法などについての意見を聞きました。そして木の植わっている一帯の表土50センチを保存する方法がとられました。
若葉台の総面積90ヘクタールのうち、約12ヘクタール分の表土を保存。保存した土の総量は6万立方メートルにもなりました。仮に抜かれた木々約3万本も、建物の完成後に植えかえられ、その際に取りおいた土もそっくり埋め戻されました。そして自然林の残されたエリアは3つの大きな公園になりました。その樹林地の総面積は9ヘクタールにもおよびます。
土地には、それまでの生物の歴史が蓄積されています。そんな貴重な土が残されることで、その後の若葉台にさまざまな里山の植物が芽生えることになったのです。40年ほど前、若葉台が自然尊重の理想のもとに開発されたことにより、いま現在、豊かな緑に包まれているわけです。
また土が残されたことで、原生に近い形で植物の多様性が保持され里山の貴重な植物が芽吹いたりしています。土地を掘ること、木を抜くことは、地球を傷つけること。若葉台の開発法も自然と共存するために最良の方法だったのかもしれません。
(『Mix Time』根本俊佑)