「ところで、立花先生は今度の真栄高同窓会には来られるのですか?」
「在職期間が短いからこれまでは遠慮してたけど、今回は出席するつもり」
「それは楽しみだなあ」
「楽しみじゃなくて、高取くんをとっちめてやろうと思っているのよ」
「え、またどうして?」
「だって彼は月城市役所の生活環境課でしょ。この山北の豊かな自然を、体を張ってでも守らなくちゃならない立場よ。それがあんな状況になって」
立花は憤った様子で言った。
「それは僕も気になっていたんです。子供の頃は山北でよく遊びましたから。それで、視察を兼ねて今日は家族とピクニックに」
「そうだったの……。ところで吾郷くんはいま何をしてるの?」
「実は……、僕も月城市役所です」
「え、そうなの。部署はどこ?」
「言いにくいですけど地域産業課です」
「まあ。それじゃあなたも同罪じゃない」
「厳しいなあ。犯人扱いしないでくださいよ。でも言い訳ですけど、僕が中途採用で着任する前に許可された案件なんです」
「だめだめ。残りの開発をストップするように頑張ってよ」
「あ、はい。僕なりに」
「頼りないわね。まあいいわ。わたしは観察を続けるからここで失礼する」
立花は踵を返して森の方向へ歩きだした。ありがとうございました、と声をかけたら彼女は背中を向けたまま手を振った。
「素敵な先生ね」
「高校時代とはずいぶん変わったなあ」
「どんなふうに?」
「まあ年齢を重ねたこともあるけど、生物の先生だった頃に比べてなんというか、『強さ』を感じる。自分の信じる道を突き進んでいる人間だけが持つ揺るがない強さ」
「言い得てる気がする。わたしも強い女性を感じたわ」
加奈子は納得した様子でうなずいた。
「ちょっと最後に見たい場所があるから回っていこう」