兆し
動物生態学研究所
「お、今日の話し相手はネズミですか」
立花友香は、飼育ケージとにらめっこしたまま右手を振って加山に応える。
「この子たちはデグー。ただのネズミじゃないわよ。加山くんより頭がいいかもよ」
ひえー、加山は大げさに恐れ入ったふりをした。
「ところで立花先生。例の試作品お持ちしましたよ。まだ改良の余地はあるけど」
「待ってたわ。どれどれ」
二人は研究所の片隅で、加山の持参した装置をいじりだした。
立花友香は動物行動学者だ。元々は真栄山高校で生物の教師をしていたが、一念発起して研究者となり、現在は「真栄山大学動物生態学研究所」の特任教授をしている。
主な研究テーマは「動物のコミュニケーションと行動」だ。加山との共同研究で、動物と会話のできる装置の開発に取り組んでいる。
加山慎太郎は真栄山大学工学部を首席で卒業後米国に留学、帰国して真栄山大学で講師となり、大学発ベンチャーを立ちあげてAIを活用した、相手の表情を認知してイントネーションを変えるマルチ言語対応通訳ロボットを開発した。その評判を聞いた立花から声をかけられ、彼女の研究に参画した。