(仕事もなくなり、明日からどうしよう)

(部屋探すったって、どこに聞いたらいいんだ)

頭のなかは真っ白だった。どう考えても納得がいかなかったが、社長はこれ以上なにを聞いても答えないオーラを出して、俺を威嚇していた。途方に暮れていた俺は、コンビニに立ち寄り、無料のフリーペーパーと有料の求人情報誌を手に取った。

全部を読んだわけではないが、ほとんどの職種が必要条件を、高卒以上、要運転免許、年齢二十歳以上と書いてあった。身元保証人が必要との項目があったので、叔父さんに公衆電話から電話をかけたら、奥さんが出た。俺が名乗ると、奥さんは不機嫌そうな声を出した。

「もうなんの関係もないんだから、うちに電話してこないでちょうだい」

と強い調子で突っ放され、とても叔父さんに代わってくれとは言えない。取りつく島もなく、電話は向こうから切られた。

叔父さんの住む家は、電車で三駅離れていて、急行の停まる駅だ。このときの俺は生まれた町を出て、都心の仕事を探すのが、まだ不安だったのだ。生まれた町を一歩も出たことのない俺が、これからなにをやって生きたらいいのか、なにかひとことでもヒントをくれてもいいじゃないか。

部屋に戻り、昨日までは考えたこともなかった、前の住人がなにか手掛かりを残していないかと思いついて、探してみた。押し入れの上下、取ってつけたような古びた靴箱の小さな棚、必死で探し回ったら、誰のものかわからない電話番号が書かれたメモを見つけた。

携帯電話を持っていなかった俺は、メモを握りしめ、持っている小銭を全部かき集めて、公衆電話に走った。藁にもすがる思いだった。電話番号は携帯のものだった。電話はすぐにはつながらず、それでも電話の先の相手がなにか知っているのではないか、甘い考えかもしれないが、もしかしたら今の状況から助け出してくれるのではないか、助けてくれと祈るような気持ちだった。

電話がつながらないので部屋へ戻り、少し経ってから、また電話をかけてみた。相手の留守電に、

「佐原工業をクビになった坂本といいます。とても困っているので、なんとか助けてもらえませんか?」

と何度も入れてみた。三十分置きぐらいに、部屋と公衆電話を行き来して六回目に電話はつながった。不愛想な男が電話に出た。

「ふーん、おまえクビになったのか。そりゃ困っているだろうな。少しのあいだだったら、面倒見てやってもいいよ」

相手が親切そうでなかったから、よけい信用してしまったのだろう。俺はとっさに言った。

「お願いします。どこに行ったらいいですか?」

「ああ、あと三時間したら迎えに行くから、荷物まとめて待っていろ」

電話は向こうから切れた。

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