Wish You Were Here

完璧な空調のお蔭で暑さや乾燥とは無縁の白い部屋で、赤毛の男が心細げにため息をついた。

イチジクの画像をはじめ、この男の投稿はプロフィールの印象とあまりにも違い過ぎる。それに、ある時期からインドに関する投稿ばかりになっている。

このユダヤ人の「My Life」アカウントは本人以外の者に乗っ取られている可能性を感じた。こんなところに「ある考え」は使えない。「My Life」の最後の日までに、俺の「世界」を荒らした奴を探し出してやる。そう息巻いてみたものの、この白い部屋にいながら、「My Life」の世界に現れない者を探し出す術などなく、男は途方に暮れた。

「回収されない『wYwh』がこんなに溢れているとはね」

誰が使っているのかもわからないアカウントからの「wYwh」を見て、男はますます気持ちが沈んだ。

「ため息のようなもんよ」

黒縁メガネの女が、事もなげに言い放った。

「案外、終わりにするのは正しかったのかもよ。もう収集つかなくなってる」

たしかにそうかもしれない。一見つながっているように見えるけれど、本当の「つながり」がないまま、「つながりのようなもの」だけが広がっていく……。それに気づいた人はだんだん孤立していき、やり切れない想いを「wYwh」に吐き出している。

「これまでスポンサーなしでやってこれたのが奇跡よ」

「まあね」

「私に言わせれば、スポンサーがついたって、やってみればいいのよ、その『本物のコミュニケーション』ってやつを。そんな純粋なコミュニケーションが成立するのだったら、スポンサーなんて関係ないはずよ」

わかっていない、と男はうんざりする。広告収入なしで商業的要素を排除した「My Life」だからこそ、純粋な「本物のコミュニケーション」を作ることができる、とボスは言っているのだ。

赤毛の男は、ボスの言う「本物のコミュニケーション」に共感して、今日までボスを信じてやってきた。だがそれは果たして正しかったのだろうか? 回収されない「wYwh」が溢れている世界で、「つながりのようなもの」ばかりが溢れている世界で、「本物のコミュニケーション」といえるのだろうか? そんな疑念が、男の「ある考え」をさらに強くした。