Wish You Were Here

一つのソーシャルネットワークの終了が、会議で発表された。

ボスの言うことは絶対なので、覆りようもない。ある男の心がズタズタになった。同時に、男の中に「ある考え」が芽生えた。

天井、壁、床、机、何もかもが白い会議室。ここには完璧な空調が整えられており、暑くもなく、寒くもない。何の音も聞こえない。時計もなく、時間の概念さえもない。不都合というものは一切ない。すべてが快適そのものだ。

赤毛の男が、しばらく前からこの会議室の椅子に座っている。やがて立ち上がり、習慣であるコーヒーを入れるのをやめて、会議室の隅にある冷蔵庫から瓶ビールを取り出した。

細長くて中央部分がくびれている瓶には、青と銀のラベルが貼ってある。彼は大きな左手で、瓶のくびれたウエストを握り、右手に持った栓抜きで派手に口を開けた。栓は冷蔵庫の下に転がっていったが、彼は構わず、白い泡の液体をすすり始める。頬にほんのり赤みがさし始めた。

だが、いくら白い泡の力を借りても、男の脳に突き刺さっている「ある考え」が、消えることはない。それどころか、発酵してどんどん大きくなっているようだ。彼は大きな会議用テーブルの真ん中の席に着いた。端の席の足元の床に、小さいが亀裂が見える。それは、会議が終わって彼一人になった時、力任せに椅子を叩きつけた跡だ。彼は目を逸らした。そして、いつものように、パソコンを起動させ、彼らが創り上げた「世界」をのぞく。

「My Life」

全世界に数千万人のユーザーを抱えるソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)だ。自分のアカウントページにプロフィールを載せて、写真や文章を簡単に発信することができる。三年前には、「ともだち」申請をしてつながった者の間で使える、データ通信の通話機能も追加された。

似たようなSNSは数多くあるが、「My Life」はいくつかの特徴を持っていた。

最大の特徴は、約二十年前にサービスを開始して以来、スポンサーとなる企業がまったくついていないことだ。そのため商業的要素は一切排除され、ユーザーは余計なニュースや広告を目にすることがない。「ユーザーのみの純粋な世界」が謳い文句だ。他のユーザーの検索や、その他の検索の嗜好のみに基づいたアルゴリズムによる結果が表示される。

「My Life」運営者はこの点をまず強調しており、「ユーザー本位の、ユーザーのためのみの、人とつながる本物のコミュニケーション・プラットフォーム」であることを謳っている。それでいて、ユーザーに費用の負担はなく、パフォーマンスもスムーズでストレスがない。