【前回の記事を読む】全世界に数千万人のユーザーを抱えるSNS「My Life」の謎…
Wish You Were Here
午後六時を少し回った日本・東京。清澄白河駅前の通りにあるカフェ。軒先のスペースを利用したテラステーブルについて、ビールを注文した男がいる。薄い金色の短髪にブルーの目をした男である。居心地が悪そうに二メートル近い背を軽く丸めている。抜いた瓶の栓が一つ、男の靴先に転がっていた。
初夏の宵の口である。空はまだ青いが、薄い闇の気配を抱えている。家路につく人や車が行き交い、駅前にはちょっとした音の渦が交錯している。電車が到着し発車する音、駅に向かう人や駅から出てくる人の足音、横断歩道の信号が青になったことを知らせる音などが折り重なって、落ち着きのない喧騒が溢れている。
若い男性のウェイターが、ウエストのくびれた青と銀のラベルの瓶を持って来た。口は既に開いている。男は瓶のウエストを握って、一気に半分ほど飲んだ。
それは早くも今日二本目のビールだった。このテーブルに着く三十分ほど前、男は、清澄白河駅から十五分ほどの永田町駅の構内にあるバーで、一本目を飲み干している。暑い一日だったせいもあるだろうが、待ち人が来ないことがわかったせいでもあるかもしれない。
男の向かい側の椅子には、誰もいない。独り、携帯電話をいじりながら、いつものように「My Life」のアカウントページを開く。
