第二章 希望
達也から視線をそらすことなくミヨが見つめている。
先ほどの状態が整理できない達也の隣で、ミヨが澄んだ青空を見上げた。
「晴れてよかったわね。本当にいい天気」
にこりともせず天気を気にするミヨがどこかおかしく思えて、達也の緊張は緩んだ。
「この学校、丘の上にあるからかしら。夜になると星がとてもきれいに見えるの。特に、このグラウンドの真ん中に立って見上げると、なんだか星を独り占めしてるみたいで。だからここは私のお気に入りの場所なの」
ミヨは飽きずに空を見ている。
「部活で遅くなった冬の日とか、こうしていつも星に向かって手を伸ばしてみるの。とても近くに感じるのに、当然だけど全く手が届かないのよね。願いごとは届くのかな……」
空に向かって手を伸ばすミヨが愛らしく感じられ、達也の胸は高鳴った。
「絶対、届いてますよ」
「そうだといいわね」
「そういえば先輩、すごくたくさん来てますね。去年もこんなに多かったんですか?」
「去年は体調を崩して学校もお休みしちゃったから」
わずかにミヨが視線を落とす。
「みんなが集まる時はいつもそう。今年の夏の花火大会だって、私だけ参加できなかったの。きっと、きれいだったんだろうな……花火」
ミヨは遠くの空を見つめている。
「す、すみません。傷つくようなことを聞いちゃって」
ミヨがゆっくりと首を横に振る。
「少し回りましょうか」
「は、はい」
急な石段が裏門の先に続いている。
「さっきは気づかなかったけど、すごいですね、この石段。先が見えないや」
「百段くらいあるらしいわよ。上りきるには、速い人でも十分はかかるって聞いたことがあるわ。サッカー部の人たちが練習でよく走ってるけど、とても大変みたい」
「……でしょうね」
「達也くんも一度歩いてみたら?」
「え? 今から下るんすか?」
「下って上るのよ。タイム計ってあげましょうか?」
「いや、ぜんっぜん意味わかんないっす」
「冗談よ」
ミヨはくるりと向きを変え、校舎の方へと歩きだした。
「冗談か……そうだよね」
二人は裏門をあとにし、校舎へと向かった。
二人は各クラスの出し物を見て回った。
お化け屋敷や演劇などを楽しんだあと、飲食店を担当しているクラスの前を通った。
「いらっしゃいませ。冷たい飲み物などはいかがですか?」
レジの女子生徒が明るい口調で言った。
「先輩、何か飲みませんか? 僕は炭酸でも飲もうかな」
「私はブラックコーヒーにするわ」
レジを担当している女子生徒が笑顔で会計する。
「それでは、二百四十円です」
「あ、先輩いいですよ。僕だしますから」
達也が、財布の中の小銭を一枚ずつ数え手のひらに納めていると、ミヨが突然、達也を制するように腕のそでを引っぱった。
「ん? どうしたんすか?」
ミヨはあるものをじっと見つめ指を差した。
そこには茶色の長方形の箱に入ったビターチョコが並んでいた。
達也はにんまり笑って三百四十円を払った。そして二人は混雑した校内を避けて、再びグラウンドへと足を運んだ。