第三章 運命の人
三週間が経った。いよいよ入試本番を明日に控え、最後の総仕上げに達也は部屋で各科目のチェックをしていた。
「すげえ。もうほとんど間違えなくなったな。ボールペンのインクも残すところ一ミリくらいか。どうしよう。明日の試験の自己採点のためにとっておこうかな」
達也がボールペンをまじまじと見つめていると、携帯に一通のメールが入った。結花からだった。
『達也くん、こんばんは。いよいよ明日になっちゃったね。お互いがんばろうね。それじゃあ、明日の試験会場でね』
達也は結花に返信する。
『結花、おっす。明日はお互いベストを尽くそう』
その後、達也はミヨにメールを送信した。
『先輩、こんばんは。その後、体の調子はどうですか? いよいよ明日です。がんばってきます』
明日の支度を終え、床に就こうとしたその時、『ブリリアント・スノー』が鳴る。携帯を手に取り、ミヨからのメールを開く。
『達也くん、いよいよね。明日は落ち着いて普段通りの力がだせることを私、祈っているわ。私が達也くんにあげた赤いボールペンを、必ずお守りとして持っていってね。私が受験生の時、前日までずっと使っていた赤いボールペンを内ポケットに入れて試験に臨んだんだけど、とてもうまくいったのを覚えてる。達也くんも内ポケットに入れて、もし緊張してきたら、ボールペンのところに手をあてて深呼吸するといいわ。きっと、うまくいくはずよ。がんばって!』
達也はミヨのアドバイス通り、制服の内ポケットにミヨからもらった赤いボールペンを入れた。
翌日。冬晴れの厳しい寒さの中、受験生たちは本番の朝を迎えた。
みそぎ学園高校の正門をくぐり、試験会場となっている教室へ向かう途中、達也は結花に声をかけられた。あいさつを交わすが少し緊張している様子だ。
「いよいよだね。私は、向こう側の一組の教室だった。達也くんは?」
「僕は、結花と真逆の五組みたい」
「そうなんだ。帰りは一組から規制退場があるみたいだから、試験が終わったら外で待ってる。達也くんにメールするね」
結花は達也に手を振りながら、一組の教室へと向かった。少しずつ受験生が集まってくる。達也は自分の試験会場となっている五組へと向かった。
自分の受験番号が印字されたシールが貼られた座席に着く。さすがに周りの受験生は皆、問題集やら理科や社会の一問一答のようなもので黙々と復習している。緊張感が高まってくる。
達也は内ポケットの上にそっと手をやる。ほどなくして、試験監督の教員数名が教室に入ってきた。
心臓の鼓動が徐々に高まってくる。ついに最初の科目である国語の試験が始まろうとしていた。