朝からニュース番組は、また昨日からの要人の動向だった。
金曜日に発刊された週刊誌に献金疑惑をすっぱ抜かれたらしく、ハチの巣をつついた騒ぎになっていた。
要人はもともと政治ジャーナリストだったこともあり、著作物も多い。
残念なことに万里絵の出版社からではなかったが、新作本を出したばかりで、販売促進のための握手やサイン会が開かれていた。万里絵が出版説明会に出向いた書店に、午後から登場する予定だったらしいが、とんでもない騒ぎになって、イベントが中止になった様子が映されていた。
もしかしたら、万里絵が七階のトイレに行った時、男性化粧室に入っていたのは午後一のサイン会に控えていた要人だったのではないか。
要人が主役のニュースなので、つい中心の人にしか目が行かないものだが、あのSPをメインに見てみると健気にガードしている様子が、画面の端々に結構長い時間映し出されていることに気づく。
ライトブルーのネクタイもさわやかな感じだし、人にもまれて乱れ気味になってはいるものの、整えられた髪型も感じが良い。決して崩れることのない鋼鉄の面構えも、万里絵は一度会ったことのある人なのだという思いがときめきに拍車をかけた。
SPに関連する情報をインターネットで検索してみた。SPを主人公にした映画やドラマシリーズがかなりの数あって、有料とはわかりながらも見てみることにした。
休日の食事は朝がパンと牛乳と果物、夜はカレーライスと決まっている。食堂が休みの昼食は、ミニキッチンで自炊するか、コンビニで調達しなければならなかったが、忘れるほど夢中になって次々と見続けた。
月曜日の朝、万里絵はワイドショーを全部録画するようにして、勤務に出かけた。
要人の献金疑惑は、ニュース番組だけにとどまらないほど、話題急上昇だったのだ。
「木賊さん、両目、充血していますよ」デスクにつくなり、隣の水原史夏が顔を覗き込んだ。
「コンタクトレンズの調子でも悪いんですか?」
史夏は入社一年目ながら、子供の頃からミステリーの大ファンで、驚くほどミステリー小説には造詣が深い。投稿作品のミステリー系は、根っから文系の万里絵の苦手分野なので、下読みの担当をしてもらっている。
「木賊主任は、仕事のし過ぎですよ」向かいの席の原田祐樹は、史学科出なので時代小説の担当だ。
「大丈夫、大丈夫。はまったドラマをずっと見ていました」
「珍しいな」
西木部長まで口をはさんだので、万里絵は苦笑しながら、引き出しの中から目薬を取り出した。
「木賊さん、なに、見ていましたかぁ?」
史夏の突っ込みを遮るようにデスクの上の電話が鳴った。
受付から真梨邑蘭子から電話が回されてきた。