白に赤い花柄のブラウスの女

秋名には蘇鉄が群生し自然林になっており、海は貝や魚が豊富で潮干狩りが出来た。

海に入り貝を拾うように取ったが、トコブシ、シャコガイ、サザエなどで、2時間で買い物袋が一杯に。沖合にある岩に座って、前に広がる数本の碧いグラデーションを見ながら玲子と話した。

「真、これからどうするの」

この問いかけに私は真っ直ぐに答えた。

「最近は大阪に帰って、勉強をやり直したいと思っているんだ。その時、俺の人生を変えた奄美大島はよいフィールドになると思うから、大事にしたいと思っている。でも生活も今の会社も……大事だから」

建前を答えたが、玲子は二人のこれからの関係を聞きたかったのかもしれないと反省。気持ちがモヤモヤしていると、ここで玲子が何か決意したかのように思いがけないことを言った。

「私がこの島に来たのは、過去を捨て、夢を見つけるためだったんです。引き出し一杯に幸せを詰めて帰りたいと思っています」

あっけにとられ玲子の顔を見ると決意を示すかのように凛としていた。ここで私が、返事が難しい球を投げた。

「玲子さんは、何をこの島に捨てに来たの」

この質問を後悔したが、口から出た言葉は取り戻せなかった。その不安を振り払うように玲子が答えた。

「私、行動は慎重ですけど、一度だけ自分に似合わない行動をして……。東京に出て来て最初、寂しくて大学で知り合った人のよさそうな男と付き合ったの。でもその人は大変な遊び人で、私の友人にも手を出して。私も結構傷ついたんです。それで3ヶ月休学して復帰。その時、同郷の人で高校のテニス部の先輩で、東都工業大学の修士2年だった彼に支えられて、ここまでこられたの。私の憧れで安全弁みたいな人で結婚を望んだ人です。それが、今度は彼が躓いて、というか研究がうまくいかなくなって、私が思うには、離島というか学生運動に逃避したんです。心を癒せるならそれもいいかと思っていたんですが、真面目な人なのでのめり込んでしまって、今は休学中です。もう1年になります。私が卒業するまでには何とか復学して欲しいんです。これが私の僅かなお礼の表し方なんです」

と一気に喋り、涙目になって潤んだ目で私を下から見上げた。これが玲子の人間不信、男不信だと理解した。私は「その人が玲子の恋人で結婚したかった人なんだ」と言いながら玲子の手を取って引き寄せる。

玲子は傷ついた小鳥が枝に止まるように私の腕に捕まった。

「真ありがとう。それで、私を救ってくれた人が、この島でもがいて苦労していると思って、何か出来るのではと、この島に来たの。でもそれは私の思い違いで、彼には彼の新しい人生がここにあったんです。それが、これからは自分の敷いたレールを走ることだった」

自分の思いを素直に述べたように思えた。言い終わると私から離れた。玲子の衝撃的な告白が私の心に火をつけ二人の距離を急速に縮め、私は自分の気持ちを打ち明けることに。

「玲子が帰った後、俺も大阪に帰るけど、また逢って欲しい。来年もこの風景を一緒に見たい。玲子と見たい……」

玲子は不意を突かれたのか、一瞬戸惑った様子を見せたがすぐにいつもの笑顔に戻って明るく答えた。

「いいですよ。私でよければ、この場所でこの風景をまた一緒に見ましょう。あなたに私の気持ちを聞いてもらって、さらに前を見て歩く力が湧いたから。ここが出発の場所だからもう後ろは見ない」

私はこの答えを聞いて目的を達した。

それにしても玲子の凛とした顔を見て気持ちが引き締まり、うまく自分の気持ちを表現できないが責任を感じた。

「ありがとう。それじゃもう少し取ろうか」

こんなことを話し、玲子の故郷、高知で逢うことも約束。それでも時折見せる寂しい顔が気になった。それをかき消すように残された夏を満喫するべく一緒に行動した。