【前回の記事を読む】【小説】「たかが人間じゃろ、人間は中身じゃろ。中身のある者は着飾ったりしないもんじゃ」
一、必然
「……いえ、なんとなく」
「あなたの言ったとおり、神通力をもっているんです。つまり、私は神なのです」
「……神、ですか」
マスク下で純一の右口角が鼻息と一緒に上がった。
そのような言葉、信じるのが無理。漫画の読みすぎか、空想癖があるのか、宗教の勧誘か、さもなければ老人特有の認知症状か。
「信じてもらえないようじゃのぉ」
純一の人差し指が小刻みに額をかいた。
「残念ながら僕は神を信じない。信じたいけどね」
「なぜ? ほとんどの人間は神を信じているというのに!」
「じゃあ、なぜ罪のない人が通り魔に刺されて死ぬの? なぜ子供が誘拐されて死ぬの? なぜ、欲深い政治家が長生きできるの? でしょ?」
「なるほど……。返す言葉がないのぉ。申し訳ない。でも、残念ながら私は神です」
「……そうですか」
純一は老婆の言葉を流すように言うと、
「仕方ありません。神の力を少しだけみせて差しあげよう。旦那さんの嫌いじゃないものをおみせしよう」
と、神と名乗る老婆はニタリと笑った。