火星基地の司令官ウサインは「隕石衝突から3日が過ぎたが状況に変化はないか」と、壁面の大型スクリーンに目をやる。

観測隊員が「ありません。地球は灰色のままです」と、望遠鏡の画面を見ながら空しく答える。ウサインが「月基地からは何か言ってきているか」と尋ねると、通信隊員が「隕石衝突前に地球を出発したシャトル、プロミスが8名の隊員と月軌道上に到着した」と連絡が入ったことを感情を押し殺し事務的に報告する。

ウサインが「そうか無事にたどり着けたか」と言ったものの、これからのことを思うと喜ばしいのかどうかもわからず言葉が続かない。この時の地球と火星との位置関係は、火星から地球を見ると太陽に向かって左に1億1千万キロメートルのところにあり、地球が日増しに近づいてあと3か月もすれば最も近くになるが、今は光の速度でも6分は掛かるところにいるので、ここからでは地球の状況把握が難しく、月基地からの報告が頼りである。

月基地での生存者は26名、地球のこの惨事をつぶさに観測していたが、その壊滅的で甚大な被害に声も出ない。月基地の食料と燃料は長く持っても2年で枯渇する。帰還用の宇宙船は2隻、5名ずつ10名しか搭乗できない。