【前回の記事を読む】「おれ、同棲していたんだ」旧友とのドライブ、語らいのひと時…
あいつと気が合った
「この間、城田君に遇ったよ」
「城田って、あの朝鮮人のか」
「うん」
「やっこさん、どうしてた」
「駅前の建築工事現場にいた。全く奇遇でね。ひょいと顔を上げたら足場の上にいるあいつとピタッと目が合ったんだ。彼はぼくがすぐ分かったらしいよ。笑いかけてきたから。話はしなかったがね、元気そうだったよ」
「あいつか。マラソンが強かったな」
「そうマラソン大会のときは人気があったな。小学校のとき君たちはずいぶん意地悪をしたらしいが、ぼくはあいつと仲が良かったんだ」
といっても明夫と城田は小学校が違っているので詳しいことは知らないし、付き合うようになったのは中学に入ってからだった。
当時、この町には小学校が四校あったが、中学校は一校しかなく、どの小学校からもその中学校に通ってきた。だからずいぶん遠くから通学している生徒もいた。
「君たちは大蒜臭いとか頭がゼッペキだとか言っていたが、君たちの仲間より彼の方がよっぽど大したもんだ。未だに国籍が韓国なのか、北朝鮮なのかも知らんのにな」
「うん、卑怯だよ。クラス対抗のマラソン大会のときだけ彼を持ち上げといて、他のときは冷たいんだもの。ぼくは書道部で彼と一緒だった。ぼくはあいつと気が合ってたな」
国籍で人を差別したことは一度もない。それだけは誇りをもって言えた。
明夫もまた城田の国籍がどうだか知らないが、たしか友人が見せてくれた教員採用試験の要項にも、日本国籍を有する者という条件があったことを思い出した。
「だけど彼がああいう建築現場で働いているのは、やっぱり国籍とかなんかの関係で公務員や会社員になるのが難しいんだろうか」
「そうかもしれん」
城田については、今でも常雄には言えないような思い出が一つだけあった。当時、中学校では希望すれば文化部と運動部の両方に入ることができた。だから明夫は軟式テニス部と書道部の両方に入っていたのだ。
書道部の活動というのは運動部ほど盛んではなかった。
何曜日だったかは忘れたが、一週間に一日放課後に集まって書いたものを書道の先生に直してもらったり、批評してもらう程度だった。
書道部の活動が終わった後、城田と二人で学校の傍らの小川商店に行った。