リュウトが、「ひょっとして苗の本数は数えていないの?」と尋ねた。
「どうして?」
「いや、分かった」
納得できないという顔をしながらリュウトが答え、そしてつぶやいた。
「やっぱり、へん」
それがどうしてへんなのかは、はるなには分からなかったが、
「うん」と頷いた。
「はやくいちにんまえになる。やくだつひとになる。きみたちのおしゃべりにつきあえない」
男の子は自分の仕事に戻っていった。ゲンゴロウが土を巻き上げながら田んぼの中に潜もぐっていった。数人の女の人がイノシシを受け取りに出てきた。
ゲンタに一言「ありがとう」とだけ言って、イノシシをどこかへ持って行ってしまった。女の人も洞窟の男と同じく、はるなの回りの大人たちよりかなり小さい。大人なのにはるなより一回りも二回りも背の低い人さえいる。
イノシシがいなくなってはるな達は気分が少し落ち着いた。田んぼや川へと降りていく道のあたりにはオオバコやスベリヒユ、露つゆ草くさなどの雑草が生えていたが、一歩、集落の中に入ると道はきれいに整えられている。
雑草も生えていないし、ゴミや石ころも落ちていない。頭の上あたりで鳥がチイチイと啼なく声が聞こえてくる。山の上からは別の鳥の声が集落へと落ちてくる。
「あれはてっぺんかけたかと啼いているのよ」
と、ちさが言った。
「ホトトギス? 何のてっぺん欠けた? さっきの山のてっぺんかなぁ。地震があったし、土砂崩れを起こしそうな所だったし」
とショウが真顔で言う。
「やめて。まだ山には人がいっぱいおったんだから、怖いこと言わないで」
「だって、さっきだって、足下が急斜面で崩れかかっていたし」
「もう、変なこと考えないで」
ちさが涙声でショウをいさめた。洞窟の男は集落の入り口の橋の上で気長に待っていたが、子供たちがこちらに向かって歩き出すのを見て、一軒の家の中に入っていった。七人もそれに続いた。
その家は土を突き固めた床が地面より一段低くなっていて、作業所のようだった。男はショウから朱の入った袋を受け取り、中にいた人たちに渡した。
「いきなり、どうくつに、はいってきた。へんなやつら。あかいいしもしらない。ほっとけない。つれてきた。なにかたべもの、やってくれ」
作業所の中にいた人たちは洞窟の男と違って、男も女も麻のワンピースのような簡単な服を着ていた。生成りの麻袋の真ん中に穴を開けて首と手を出し、腰紐を結わえただけの簡素な服だが、洞窟の男よりは寒さから身を守れそうだ。