【前回の記事を読む】自分の性別への消えない違和感…小学生の「僕」の小さな悩み

居場所

「男なら半袖半ズボン、裸足で一年中いろよ」

唐突に男子グループの仲間にそう言われた。僕の住む新潟の冬の寒さはとにかく痛い。だからそのことを思うとかなり無理な挑戦だった。しかし僕は彼らと対等になりたくてその信念を貫くことにした。髪型もショートから坊主に変えた。そうしていくうちに男友達は僕を男として認めてくれた。

それでも十歳を迎えると深刻な問題が訪れる。男女の差がグループの編成にも影響を与え始めたのだ。女子たちに、「どうしてそんな格好するの?」と聞かれることが増えた。僕はたいてい「お前らとは違うんだよ。女子には真似できないだろ?」と答えていた。大抵の女子は「横関だって女じゃん」と返す。僕はその言葉にコンプレックスを抱き、怒ることもあった。

当時の僕は、今の体が女だとしても、いつかはちんちんが生えて男になる、そう信じていた。それを否定する人を僕は許さなかった。やがて女子は僕が怒ることを知るようになり、男子のグループにいることも、男子の言う格好に対しても何も言わなくはなった。

しかしクラスメイトの男子からは「女は向こうに行けよ」と言われることも珍しくはない。仲間だと思っていた男子から言われることはショックで何も言えなかった。今考えれば女子ばかりにでかい態度を取る僕は小心者だった。どっちのグループにも属せない僕はやがて居場所を失うことを恐れた。

この当時、僕は伊沢君が率いるクラス一大きいグループに属していた。僕は伊沢君に好かれたくて彼の頼みは必ず聞いていた。そんなある時、伊沢君が冗談でお金が欲しいと言ってきた。僕は仲間外れにされるのが怖くて「いいよ」と答えてしまったのだ。

「じゃあ、五百円玉ある?」

「分からない。家にあったら持ってくる」

「じゃあ今日一緒に遊ぼうよ。絶対持ってきてね」

「うん」

僕は伊沢君と遊びたくてそんな約束をしてしまった。その後、僕は慌てて家に帰った。そして僕の貯金箱からお金を出してみた。中には十円玉と一円玉が僅かにあるのみであった。この当時の僕にとって五百円という金額は高額だった。僕は頭を抱えて、悩んだあげく母の財布に手を付けたのだ。

この時の罪悪感は今でも鮮明に覚えている。追い込まれた罪人のような気持ちだった。僕は罪悪感に染まった心を支えるために見えない何かに向かって「ごめんなさい」と繰り返しつぶやいていた。財布を開けた時、たくさんの小銭の中から五百円玉を一枚、抜き取った。そして逃げ出すように家を出た。その五百円玉を伊沢君に渡すと彼はとても喜んだ。

「え、マジで。ありがとう」

「うん。貯金箱に入ってたから」

「ありがとう、セキハン(当時の僕のあだ名)はほんといい奴だよね」