【前回の記事を読む】仲間外れにされないために…小学生「僕」の地獄のような日々

居場所

「横関さん、ちょっといいですか?」

ある昼休みに担任の先生から誰もいない音楽室に呼び出された。以前から怖い印象を持つ担任の先生から強いまなざしで見下ろされて、僕は目を合わせられなかった。僕は俯いて先生と向き合うように座った。

「最近、伊沢君たちにお金をあげていませんか?」

空気感でそんなことを言われるのではないかと予測はできた。とてもストレートに先生は聞いてきた。僕は静かに頷いた。

「それはどこから盗ったのですか?」

まるで取り調べのようだった。犯罪者が警察に捕まるとこんな気持ちになるのか、と僕は思考がほとんど停止した頭の片隅でそんなことを考えていた。

僕は担任の先生に正直に答えた。親に知られるのが本当に嫌だった。もうその金額は自分でも把握してないくらいの大金になっていたから。ただ、その一方でほんの少しだけほっとしたのだ。もう、母の財布からお金を盗まなくて済むのだから。

担任の先生とは何度も話し合い、ついに家族にもその出来事が知られた。家族に知られた日の帰り道、僕は遠回りをした。いつもは通らない商店街を歩きながら、道路に飛び出すことを考えた。そして道路の脇に立ってみたものの足がすくむ。僕はまた歩き始めた。今度は神社に目が留まった。そこの裏側にある長い階段を上り、振り返った。

僕はぎりぎりの選択に迫られた。胸の鼓動が高鳴る。僕は少し前かがみになって、なるべく痛みの少ない方法で落ちることを真剣に考えた。もしも僕が一瞬の勇気を振り絞れれば、きっと、お金どころの話じゃなくなるだろう。そうなればどんなに楽だろう。僕はそこで自分と葛藤をした。それでも恐怖で足がすくみ、結局僕は何もできずに家へ帰った記憶がある。

家へ帰った時の母の背中はとても怖かった。母は振り向きもせずに静かに言った。

「何か言うことがあるんじゃないの?」

僕は泣きながら正直に話した。言い訳なんてさせてもらえなかった。あの時、家にお金はなく両親も必死だったのだ。

これが小学校生活で一番辛い出来事だった。それから伊沢君のグループに僕がいられなくなった。代わりに、森君のグループに入れてもらった。森君はとてもマイペースで何だか落ち着く存在の人だった。そしてようやく僕に平和な日々が訪れた。辛い出来事の終わりというのは、一度谷底へ落とされてようやく終結するのかもしれない。