多聞山城内の自分の居室や北向きの茶室の居心地は、今の自分には合っていたが、どうにも気が晴れず、萎えてしまった気分を少しでも上向けようと、あえて豪華に設えた〈楊貴妃の間〉に身を置いていた。そこへ保子がやって来た。
「義興様のことは本当に残念でした。私と四つしか違いませぬもの、ご自身もさぞやご無念であったでしょう」
義興様より四つ年上の保子は儂の心を察してくれる。
「儂にとっては、我が子も同然であったから、この胸が痛くて辛くてかなわぬ」
そう言葉にするだけで、儂の目からまた涙がこぼれた。
「飯盛山の御屋形様は、きっとそれ以上の御嘆きでありましょうから、あなた様は一日も早く立ち直って、御屋形様をお支え申し上げなくてはなりませぬよ。こんな所でめそめそしている場合ではありませぬ」
儂よりも卅歳も年下の保子は儂の心に鞭打つように、しかし儂をしっかりと励ましてくれている。だが、そう言われても、すぐには心の痛手は治らない。
「そうじゃな……」
それだけ答えて、また口をつぐんでしまった儂を急き立てるように、
「望楼へ登りましょう。高所より遠望すればきっと気が晴れますよ」
と、保子は儂を四階櫓へと強引に誘った。