だが彼が一体何をして生活していたかは本当のところは分からない。警察の記録をたどるだけでは不完全だ。彼は巧妙に警察の網をくぐり抜けていたに違いなく、最初に捕まったのは十八年ほど前の別荘地詐欺だった。東京や関西の客相手に軽井沢や蓼科高原の高級別荘地の分譲と銘打って本当は山奥の手つかずの雑木林を売り付ける原野商法で訴えられた。

しかし訴えた側にも不備があり実際にその地を見ずに契約書に判をついていたことや彼が初犯だったことで禁固六か月執行猶予付きで釈放された。それから後は一年前の刑務所にぶち込まれる原因になった地面師詐欺の事件までは警察に捕まっていない。しかしそれは彼がよりずる賢く手口が巧妙になり警察の網に引っ掛からなかったというだけで詳しくその過去を洗い出してみれば山ほどの余罪が出て来るに決まっている。

「十四年前の事件も入れてなのね?」

「十四年前の事件も含めてね」

「警察は当てにならないわね」

「そう、当てにならない。もし当てになっていたらこんな手間は要らなかったはずよ」

家族の事は分かったかと真世は尋ねた。麻衣はあの男は別れた妻との間に子供が二人いるが音信不通で養育費なども払っていない様だと言った。

それで肝心の金の隠しどころは分かったのか? 麻衣は首を振り残念ながら未だ分かっていないと言った。鬼塚は昨年末まで刑務所に入れられていたが仮釈放で出てきてから間もなくアパートを借り、オフィスを借り、配下の男たちをどこからともなく集めて子飼いにしている。

彼にまともな金融機関なり出資者なりが金を融通するとは到底考えられないから悪事を働いて儲けた金をうまく隠しおおせているのに違いない。あいつに関しては他にも分からないことが色々ある。後は本人の口から聞き出すしかない。

「それで、どうやってあいつに近づけばいいの?」

「それは私がやるわ。どこかに落とし所がある筈よ。たとえばマッサージ嬢に化けて機嫌を取るとか」

「でもあいつは若い女が好きらしいわよ」

若い方の女は危ぶむ様に言った。麻衣はふふんと鼻で笑った。

「私もだてに二十五年間水商売をやって来たわけじゃない。どうなるか見ましょうよ」

真世は麻衣を見た。同性同士の対抗心を秘めた、少々意地の悪い値踏みする様な視線――だがその娘の目から見ても年上の女は実際の年よりずっと若く見える。

「でもあんな奴の機嫌を取るなんて出来るかしら。私なら出来ない。とても我慢出来ないわ」と真世は言った。

年上の女は心の中でつぶやいた――あんたは若い、人生何事も清濁併せ吞む事が肝心だわよ。