【前回の記事を読む】【小説】調査で発覚した詐欺師の正体。その驚くべき経歴とは…

招集

鬼塚大志郎は行きつけのサウナサロンでちょっと気になる新顔を見つけた。女の名前は中尾麻衣。若くはないが中々のタマだと見て彼はサウナサロンに行く度にこの女を指名するようになった。彼女は最初口が重く、自分のことを中々話したがらなかった。

彼は根気よく彼女を指名し続けた。すると彼女はようやく気を許したと見えてぽつりぽつりと自分の身の上を話す様になった。案外情にもろいというのもこの商売の女にありがちな共通点である。

この種の仕事をしている女たちの例に漏れず彼女は訳ありの過去を持ち借金取りに追われる身だった。彼女は以前広島でスナックをやっていたが、倒産して夜逃げして来たと言う。借金を返すまで故郷の広島へは絶対足を踏み入れることは出来ない。一体どれくらいの借金かと尋ねると六百万円と答えた。

鬼塚は吹き出した。たったそれだけの金の為にこんな仕事に身を落としたのか。しかも十九歳になる娘がいて何とか自立出来るまで面倒を見なくてはならない。娘は美容専門学校に通っているが一本立ちするまで未だ二、三年は掛かりそうだ。何とも哀れを誘う話ではないか。しかもサロンでの仕事ぶりはきびきびしていてよく気が付く。マッサージの腕もまあまあだ。

彼女を指名する様になって三週間位してから彼はこのサロンの会員と称する得意客の特権を使って別室に誘ってみた。このサウナサロンは典型的な風俗店で表向きはマッサージ、その実会員制になっていて特別の客には別室で特別サービスを提供するシステムだった。しかし警察の目がうるさいのでそうとは分からない様に“別室使用料”なるものを女たちから取る事になっている。それが店の売り上げの半分を占める主なる収入源だった。ところが驚いた事に女は目腐れ金の為には自分を売らないと言った。