実を言うと彼は彼の“ビジネス”に役立ちそうな女をずっと物色していたが未だにピンと来る女に出くわさなかった。彼の行きつけのクラブの女たちはいずれも化粧の仕方、服装やものの言い方などに水商売独特の雰囲気があって役に立ちそうになかった。美人は顔を覚えられるから駄目だが、かといって田舎女ももちろん駄目だ。適当に素人っぽく、適当に品があってしかも平凡な目立たない女。
彼が目を付けたサウナサロンの女はこの条件を満たしていた。彼は別の機会に尋ねてみた。目腐れ金には興味ないと言うが、じゃあどれくらいなら目腐れ金じゃないんだ? 一千万、三千万、それとも五千万? 彼女はくすっと笑って五千万円なら話は別だ、でもそれはここで特別サービスする位で貰えるお金じゃないんでしょと言った。
彼はうなずいてそうだ、それはちょっと骨の折れる仕事だ、アタマと演技力も要ると言った。借金を返し娘を自立させる為なら何でもすると言う女に鬼塚はピンと来た。自分の計画に持って来いの女だ。口が重いのもいい。
彼は女に今自分が取り組んでいる仕事を手伝う気はないかと言ってみた。報酬はたんまり弾むがそれにはそれだけの仕事をこなさないとダメだ。彼女がどんな仕事かと聞くのでそれはおいおい説明するが仕事の全容はその時が来るまでオフレコだと言った。女は仕事の合間にアルバイトの積りで彼のオフィスに顔を出すことに同意した。
いざ仕事に掛かると中尾というその女は彼のお眼鏡通り中々役に立つ女であることが分かってきた。彼女は一々事細かに説明しなくても彼女の役割を直ぐに理解した。又とない大きな金をつかむ話だというと本気でやる気になった様だ。
どんな役をやって欲しいか説明すると、その役柄は身体不自由で車椅子に乗っているというのはどうか、その方が現実味があるし、そのイメージを相手の頭にすり込んだらその後に町のどこかで見かけても――そしてその危険性は大いにあり得る――自分が速足で道を歩いていたら決して本人とは気付かないだろうなどと言った。
鬼塚はいい思い付きだと言った。この女は既にそれが相当危ない仕事で下手すると警察に目を付けられることを理解している様子だ。だが尻込みする様子は見えない。かえって面白がっている風だ。彼は肝の据わった女だと思った。彼は彼女を益々気に入った。女は車椅子を押す役として真世という自分の娘を連れて来た。