【前回の記事を読む】憎き詐欺師に制裁を加えるため…潜入した驚きの場所とは

招集

真世は麻衣に報告した。

「あいつ、夜はほとんど家に居ないみたい。電話番号の一つは銀座の高級クラブのものだった。毎晩そこに通っている様よ。電話で場所を確かめてそこへ行って物陰に隠れてあいつが店に入るところを確認したわ」

「あんた、顔は見られてないわね?」

「大丈夫だと思うわ。あいつの家の鍵はカードキーになっていて韓国製のパネルに向かってカードをかざして六桁の暗証番号で開閉するようになっている。掃除に行く時はあいつはもう出かけたあとよ。昼は新宿のオフィスビルに出入りしたり色んな用事で出かけたり。何をしているか全部はつかんでいない。夜は大抵子分みたいな奴らとクラブや飲み屋をハシゴして回っている様よ」

「そういうところで人を騙して荒稼ぎした金を散財しているのね。他に分かったことは?」

「新宿のサウナサロンに出入りしている。これは二日おき。カレンダーに書いてあったから確かよ」

あの男の借りているオフィスのあるビルから歩いて十五分の所にあるサウナサロンだ。

「そっちは何か収穫あった?」

真世は逆に年上の女に聞いた。

麻衣はあの男の経歴をざっと調べ上げたと言った。現在使っている名前は鬼塚大志郎だが本名はもちろん違う。笹川卓治といい、驚いた事にごく平凡な家の出で、普通に教育も受けている。

「へえ、大学出だとでも?」

麻衣はうなずいて男は一流ではないが東京の四年制私大を出ていると言った。真世は目を見張った。

「まさか、嘘じゃないの?」

「嘘ではないわ、ちゃんと卒業生名簿に載っている。あんたは大学出なら皆紳士だとでも信じてるの? 見かけに騙されてはいけない。この世界は嘘と本当が入り混じったごた混ぜスープと思っておいた方がいいわ。医師、弁護士というと皆信用する。だからその上に悪徳という形容詞が付くと腹を立てて騙されたと思う。悪徳土建業者とか悪徳会社員なんて普通言わないでしょう?

一流銀行の行員だってネクタイを締めた金貸し以外の何者でもないんだから。それに大学を出た事はあいつの助けには大してなっていない様よ。その後事業を起こしては何度か失敗を繰り返して夜逃げもしている。でも肩書はいつも“会社経営”になっているわ」

「どうやって見つけたの?」

「大学の卒業名簿に出ていたわ。実はたまたま私の昔のお客に同じ大学卒の人がいたので見せてもらったの。後は調査会社の報告と――でも名簿は二十五年前のもの。その後プライバシー問題がうるさくなって以降卒業名簿はどこの学校も外部に出さなくなった。その頃からよ、あいつの詐欺行脚が始まったのは」