【前回の記事を読む】生徒に別れも言えない「非情な異動」の先にはさらなる困難が…
管理職候補生として~強制異動、その先で身構えていたのは~
そんな4月の半ば過ぎ、前任校で担任をしていた時の教え子が、突然、私を訪ねて来た。そしてクラス皆の寄せ書きの色紙と手紙を渡された。
その時の自分の姿があまりにも疲れ切っていたようで、彼女は開口一番、
「先生、元気なさそうですね」
と一言。
私「うーん、今とても忙しいからな」
「わざわざ遠いところをありがとう」
「気をつけて帰ってね」。
ものの1、2分の会話で、遠くから電車を乗り継いで訪ねて来てくれた生徒を返してしまった。今思うと、何と冷たい対応だったのかと自責の念に駆られる。その女子生徒は、私のことを以前から慕っていてくれ、私の突然の異動を悲しんでくれていたようだった。それは渡された手紙を読んでわかったことだった。何と素っ気ない対応をしてしまったのかと後悔した。
当時の私は、それほどまでに心のゆとりがなかったのだった。初めての教務主任~教務を知らずして~着任するや教務主任というポストが待っていた。前述した通り、教務という分掌は、新規採用時に2年間の経験があるだけで、いうなれば全くの素人である。
しかし、立場は〝管候補〟、もはや一教員ではないし、避けて通るわけにはいかないポストであった。
そもそも「教務」というところは、学校組織の中で最も重要な部署で、入学者選抜からはじまって、時間割、教育課程、教科書、月間・年間行事計画、入学・卒業式等の儀式的行事や成績会議等の司会・進行、その他諸々の会議への関与等々、学校運営の中枢に位置するポストである。
そして、常に管理職と相談しながら業務を進めることが求められた。教務を知らずして管理職は務まらないとまで言われ、昔は、教務主任から教頭へという管理職の登竜門のような位置づけでもあった。
異動したばかりで、学校のことも全く分からない状況下で、かつ初めての教務主任ということで、とても大変ではあったが、来るべき管理職昇任に向けていい勉強をさせていただいたと、今、つくづく思う。
家族の支え ~犬のお出迎え~
さて、昼近くに出勤し、夜12時頃に帰宅するという定時制勤務にもようやく慣れてきた頃、いつものように自宅最寄り駅に降り立って改札を出ると、向こうの方から元気のいい犬の鳴き声が聞こえてきた。こんな夜中に近所迷惑な犬だと思いながら、その鳴き声の方に目を凝らして見ると、薄明るい外灯のもとに、愛犬梨里(りり)と犬のリードを握りしめた妻の姿があった。
梨里は私がわかったようで、尻尾を激しく振り、より大きな声で鳴きわめく。おまけに、酔っ払いにも、見境なく吠えまくる。
その後、私の鞄と妻のリードを持ち替えて、興奮冷めやらぬ愛犬と一緒に久しぶりに3人?で散歩して家路についた。〝家族〟に支えられていることを感じたひと時であった。