【前回の記事を読む】2万年先へタイムカプセルを「馬鹿なものを入れた方が面白い」

太陽圏からオリオン星座に向けて発進

6人の主人の記憶データのすべてがマザーコンピューターの中にコピーされた。

乙姫とマザーコンピューターの中の6人、現実に地球に残り彼らを見送る6人、遥か宇宙に旅立つ自分を自分が見送るという不可思議な状況である。6人はそれぞれの自分の分身に最後の別れをする。

老いていく自分自身と数万年先の宇宙に旅立つ自分自身、神の御手の趣くままに旅は始まる。

6人の主人は何万年にも亘る旅に際して、旅の十ヵ条の約束を結び顕彰碑の前に榊とお神酒を供えて神様との約束をした。

第一条 何が起きても誰かの責任にしない。

第二条 何事も全力で尽くすが、だめなときはきっぱりあきらめる。

第三条 嫌なことや理不尽なことが起きたときは多数決で決める。

第四条 どんなときでも喧嘩はしない、もしなっても次の日には残さない。

第五条 決められた以上には長生きはしないし死を先んじることもしない。

第六条 最初の計画を変えることはない。

第七条 一人は全員のために全員は一人のために尽くす精神を忘れない。

第八条 家族兄弟のように、信じ合い思いやる無償の愛をささげる。

第九条 途中で帰りたい、止めたいとは絶対に言わない。

第十条 最後の終わりは全員一致で決める。

2年の歳月をかけてウラシマが完成した。船内にはまず初めにコンピューターのマザーが運び込まれる。

次に、6人の主人のiPS細胞と竹取村の村民たちの遺伝子細胞と世界の動植物の遺伝子が慎重に運び込まれた。2万年の旅行に必要な資材が次々と搬入され、最後に8基の地球往復に活躍したシャトルがエンジンルームと合体した。ウラシマの中では各ロボットが出発までのプログラムに従って天手古舞てんてこまいの忙しさで動き回っている。

2030年5月17日、日本時間午後11時11分11秒ウラシマ発進。

満天の星空のもと、青白い炎がウラシマから噴き出した。地上から見上げる群衆から歓喜の声と拍手が湧き起こる。

ウラシマ2万年の宇宙冒険旅行の始まりである。ウラシマの機能試験を兼ねて、まずは地球引力圏内をゆっくり周回して船体の強度確認や船体のコントロール機能のチェック、8基のエンジン出力の調整などパイロットを務める乙姫の操作技術の取得をも狙っての試験航行である。

徐々に速度を上げエンジンの燃焼性能を確認、居住空間の回転状況や機材の設置状態そして機体のゆがみや強度などを確認する。建造そのものが昆虫や動物の行なう自然工法で行なわれたために、全体がどの程度の完成度を持っているかは実際に運航させてみなければ正確な強度計算を弾くことができない。

堀内と乙姫は試運転の結果を見て、想定以上の性能に満足した。

「すべて異常なし、これなら大宇宙に向けて発進できる」

と確信を持つ。ウラシマは月軌道に向けてゆっくり進む。