第1章 帰還
西暦44225年、火星天文台と木星の無人天文衛星から、
「巨大隕石発見、オリオン座方面、ヘリオポーズの境界線175億キロを越えて接近中」
未確認物体が太陽系惑星のリング内に接近中との緊急報告が入る。
太陽系外から巨大な隕石が、あたかもオリオン星座のペテルギウスの剣が投げられたように、平面的に並んで的のように惑星が回転している太陽系に飛来してきた。
火星から5億キロメートル離れた木星の軌道近くをかすめるように、第3宇宙速度を超える速さで接近してくる。
火星天文台が、太陽光線にわずかに光る隕石を光学望遠鏡で確認、人類への危険は無いものの太陽系外からの飛来隕石は極めて稀なことである。近づくにつれて隕石の大きさが判明してきた。
形状は葉巻のように細長く、全長は4千メートルほどもある巨大物体である。
万一地球に衝突すれば地球上のすべての生命が絶滅する被害が出る大きさである。
地球防衛隊は、この不可思議な隕石を太陽系に張り巡らした天文台からつぶさに観測していた。
しかし不思議なことに大きさの割には質量がとても少なく、隕石の中が空洞になっているのではないかと学者らは疑問を感じ、人類が経験したことがない不思議な隕石として議論の的となっていた。
万一軌道がずれて太陽系に影響が及ぶことになるなら破壊すべく準備も始められた。
そして、この隕石が発見されてから1か月もした頃、隕石が突然自ら減速を始めたのである。
火星天文台の職員が驚きの声をあげた。
「減速しています、減速しています。隕石がスピードを落としています」
「何を馬鹿なことを言っているんだ、隕石が減速などするはずがない。観測間違いだろ」
「いや間違いありません。ものすごい勢いで減速しています」
「このコンピューターのグラフを見てください。間違いありません」
発見されて以来、地球外周観測衛星によってその動きをつぶさに監視されていたが、隕石の突然の減速に宇宙防衛隊は驚嘆。
「これはただの隕石ではなく確実に未確認飛行物体=UFOである」と声明を発した。
人類がこの世界に誕生して以来UFOのうわさは紀元前からいくつもあるが、科学的に観測されたのは今回が初めてである。
地球代表部は防衛隊からの報告で、宇宙人との遭遇を考え宇宙第一級非常警戒態勢に入ると宣言、すべての組織がいざというときに備えて臨戦態勢を敷く。
緊張が続く中今度は、未確認飛行物体から、電波が発信された。
「メーデー……メーデー……」
遥か昔の地球人が使った通信信号である。