後方5番エンジンから8番エンジンの4基が始動、月の引力を利用してスイングバイを行ない、遠心力で一気に加速して地球引力圏を脱出する計画である。
ウラシマが楕円軌道を描きながら月の裏側に入る。月の引力に引かれてどんどん加速する。加速するにつれて月の引力と遠心力によりウラシマにはものすごい重力がかかる。居住空間の回転が重力によって押し付けられ止まり始めた。3時の方向に重力が掛かり、9時の方向の床が天井崩壊のように落ちてきそうである。
「リニアモーターエンジン作動」。ボール状の居住空間の遠心力を確保するためにリニアエンジンを稼働して回転を助け順調に旋回を続ける。月の裏側に入った。
前方エンジン1から4番の点火「5、4、3、2、1、点火」
ウラシマは月の重力と全エンジン噴射で一気に第2宇宙速度まで加速して、火星の軌道まで飛行する計画である。普通の火星探査機なら2年を要するところを、4か月で通り抜ける予定である。そして、順調に火星軌道を通過、小惑星群に近づく。この小惑星の中を通り抜け、小型隕石の探査能力を習得する予定である。観測機に補足されていない50センチメートル未満の小惑星に衝突しないように、細心の観測をしながらの通過となる。
前方2万キロメートル地点に20センチメートルほどの隕石発見。ウラシマ軌道を上方に0・1度軌道修正、隕石をかすめるように回避する。ウラシマの飛行能力は日増しにどんどん向上し、遂に隕石群を脱出した。これでウラシマの試験飛行による性能データの収集はほぼ終了した。
小惑星群を背後に見ながら大宇宙に向けて本格飛行が開始された。前方に大きな木星が出てきた。この木星を利用して第3宇宙速度まで加速すれば太陽系引力圏を脱出できる。この第3宇宙速度に加速するときにはウラシマには10G以上の重力が掛かり、機体の外部壁が剝がれないか不安である。木星に向かって吸い込まれるように進むウラシマ。
乙姫は心配する6人の主人に
「大丈夫です。私が仕上げた船です。心配しないでください」
と落ち着きはらっている。
この船の船長は織田、技師長は堀内。この2人にすべての判断が掛かっている。ウラシマの太陽圏からの離脱計算は、かつてアメリカが圏外に送り出したボイジャーの飛行記録がもとになっている。乙姫はそのデータに基づいて軌道計算を出しているのだ。ウラシマ木星に接近。
「全エンジン点火用意、10、9、8、7……3、2、1、点火」
ウラシマの8基のエンジンが全開した。第3宇宙速度を超えて木星の引力圏に突入していく。人類が作り出した乗り物で初めての速度であり、ウラシマは木星からまるで弾き出されるようにスピードを上げ、エンジンを全開してどんどん加速し土星の上空をかすめるように進む。地球からおよそ28億キロメートル先にある青いルビーと言われる天王星が見えてきた。
天王星を眼下に見ながら6人の心は揺れる。未知への期待と二度と帰ることができない故郷との別れの寂しさが交差する。
ウラシマはついに太陽圏外に飛び出した。太陽から太陽圏の果て、オールトの雲まで15兆キロ10万天文単位、光の速さで飛行しても1年半はかかる。ウラシマの性能ではこのオールトを4年で突破するのが確実である。
この領域を超えるとウラシマにはもう地球に帰る術が無くなる。船をUターンさせるだけの引力のある星が無いからである。
ゴー ストレート
オリオン座に向けてまっしぐらに進むだけである。