マザーコンピューターの中の乙姫
乙姫は地球と宇宙を結ぶシャトルの設計とその水素エンジンの開発、地球から太陽系を脱出するための大型宇宙船の設計とその維持管理のロボットの設計をマザーコンピューターの計算機能を使って6人の主人の思考をもとに作成した。そして飛行航路の計算や生命維持のためのすべてのプログラムが搭載された。
当初計算機能だけだったコンピューターは、AI研究の伊藤によってマザーの中で独立分離し、ニューロンコンピューターとして自立思考を始めた。伊藤が開発した脳幹指令システムの導入によって疑似頭脳に変貌し、乙姫が誕生したのである。自立した思考を持った乙姫は、伊藤の研究趣旨を理解し、太陽系外飛行宇宙船の詳細設計を自ら書き上げた。
伊藤の家族によって我が子のように育てられた猫姫は驚いたことに、日増しに人間の感情をも理解するに至る。伊藤が怒ると慰めたり言い訳したり、思考に行き詰まると共に悩み、必要と思われる文献を自ら探し出すといった優秀な助手となっていった。乙姫は7人目の主人と言われ、皆からは「姫、姫」と慕われるようになった。
あるとき6人の主人が酒を酌み交わして宴会を始めた。男ばかりの集まりであるので、酒の勢いも借りて姫をからかった。
「姫、酒は美味いぞ。姫も一献どうだ、この酒は姫桜という辛口の酒だぞ」
すると何と乙姫が怒った。
「私が酔っぱらったらあなた方6人の面倒を誰が見るのですか?」と、これには皆びっくりした。いつの間にか乙姫は正真正銘の6人の大切な仲間でもありマドンナの様な存在になったのである。6人と乙姫の合同生活実験も繰り返し行なわれた。