【前回の記事を読む】「もう勝ち試合じゃない」危うい初戦後半戦…はたして勝者は?
花は花として
ある意味厳しさを含む基の言葉、でもそれは、もしかしたら基も無理して厳しめの言葉を探してのものかもしれない。そして、まったく余裕のない部員たちとの間で、クッションになろうとしている足立くん。
そうした心理やら空気やらを分かっているのかどうなのか。七人の一年生たちは頬を上気させ、真剣な目でラグビー部の空気をトレースしようとしている。
グラウンドから目に立つ所に、ソメイヨシノは咲いていない。でも、どこからか舞い込んできた淡いピンクの花弁が、部員たちの足元で円を描いた。
君たちが咲くのは、もう少し先なんだよ、と。
エイトビートの疾走
稲村ケ崎高は強かった。決して大柄なティームではなく、体格で圧倒されたわけではないけれど、その圧力やスキルの高さに翻弄された。でも、試合終了後はかえってさばさばと敗戦を受け入れられる雰囲気になった。足立くんを中心に、部員たちはむしろ明るい。グラウンドから一段下がった駐車場の一画を占めて、輪になって座って反省の意見交換を始めた。練習着を身に着けるようになった新一年生とともに、正式にラグビー部のインストラクターになった基もその輪に加わっている。
新一年生のニューフェイスは妹尾満くん、川之江涼一くん、磯部成くん、柏倉陽一郎くんの四人、彼らもすでに、仲間という意志を充満させてそこにいる。
「いや和泉先生、ありがとうございました」
自分の部の落ち着いた様子に、少し安心感を抱いた佑子は、ようやく肩の力を抜いてそのミーティングを見守っていた。そこに、稲村ケ崎高の先生が挨拶に来てくれた。垣内先生という、ヒロさんの以前の同僚だった人だ。顧問総会の時も一応挨拶はしたけれど、ちゃんと話すのは初めてのこと。稲村ケ崎高が会場校だったから、ホスト役の部員たちはグラウンドの後片づけに散っている。
「こちらこそ、本当に勉強になりました。ありがとうございます。生徒たち、負けてもむしろ明るく受け止めてます」
「ヒロからも、緒方のヤツからも電話もらったんですよ。実際に対戦してみて分かりました。いいティームになりますよ、この子たち」
ごつい体格と鋭い眼光。どう見てもコワい先生なのだけれど、声を聞いてみれば分かる。たとえ他校の生徒に対してでも、優しい視線に満ちた先生だ。
「専門の先生に、毎日指導されているティームは違うって、思いました。先週の相手の合同ティームは何だかバラバラでしたし」
「でもこれで、いいんです。負けることも大切なことなんですよ。一生懸命やってる子はキチンと伸びます。和泉先生に見守られているこの子たちも、きっとね。この子たちに足りないのは、経験と自信だけだ」
「そう言っていただけると、ちょっと安心します」