俳句・短歌 短歌 故郷 2022.06.01 歌集「星あかり」より三首 歌集 星あかり 【第109回】 上條 草雨 50代のある日気がついた。目に映るものはどれも故郷を重ねて見ていたことに。 そう思うと途端に心が軽くなり、何ものにも縛られない自由な歌が生まれてきた。 たとえ暮らす土地が東京から中国・無錫へと移り変わり、刻々と過ぎゆく時間に日々追い立てられたとしても、温かい友人と美しい自然への憧憬の気持ちを自由に歌うことは少しも変わらない。 6年間毎日感謝の念を捧げながら、詠み続けた心のスケッチ集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 西に梅雨太平洋に高気圧 雷鳴ってスコールの昼 日数追い訪問迄にひと月の 出逢い重力圏内に入り 散歩の夜素顔の見れた神田川 そこの知れないモルダウの様
小説 『春のピエタ』 【第7回】 村田 歩 刑務所で、お袋と13年ぶりに対面…こんなに小さな女だったか―。あの頃、生活が苦しく、いつも歯を食いしばっていたお袋は… 俺たちは婆さんより早く呼ばれた。刑務官に案内されているとき、初めて親父が落ち着かない様子を見せた。首から下は先を行く刑務官に素直に従っているのに、首から上はまるで道を見失ったかのようにあたりをきょろきょろ見回している。勝手が違う、といった顔だ。俺は急に不安になった。悪い想像が浮かぶ。たとえばお袋は急病で、敷地内の医務室のベッドで身動きできなくなっているのではないか。だからいつもの面会室で会うこと…
小説 『溶けるひと』 【第10回】 丸橋 賢 「死んでもいい」今までの過ちと覚悟を激しく息子に訴えかける母。息子を正そうとするも、母は自らの鈍感さに気づき、息をのんだ。 これを何とかしなければ地獄が待っているのだ。実知は布団ごと知数を強く揺さぶった。「知数、起きてちょうだい。ここに座って。お母さんの話を聞いて、考えてちょうだい。私は本気よ。お前が元気になるなら、私の命なんかいらないと思っている。命をかけて、お前と話し合いたいの、それができなければどうなるかわかっているじゃないの。お前も私もお父さんも、先がなくなるだけなのよ。私たちは、だから、選ばなければいけない…