【前回の記事を読む】道路に飛び出した「何か」、認識する前にブレーキを踏めるワケ
クロノスタシス現象が起きるメカニズム
このような観点から考えますと、外界の視覚情報が、視覚化に100~145(または170~200)ミリ秒程度かかるとすると、その時間分だけ視知覚としていつも遅れているということとなるわけです。
ここで時計の話に戻りますが、仮に秒針が止まっている間、最初から最後まで見ていたとして、中心視野でとらえている限り、すべての映像は同じように遅れているので(見た瞬間の最初の映像も、最後の映像も、同じように遅れて知覚されるので)、その差を考えると同じとなり、長くは感じられないはずです(秒針が止まっている時間が長くは感じられないはずです)。
秒針が止まっている時間が長く感じられるためには、予測された以上に長く止まっていると感じることが必要です。このためには、中心視野でずっと秒針を見ているとそれは感じられないはずですが、例えば視線を動かしている際にふいに秒針を見たとして、秒針が止まったのを有効視野を含めた周辺視野で知覚したあと、中心視野で秒針を見ると、その現象が感じられることがあるのではないかと思われるのです。
この理由ですが、周辺視野は視覚化が速いと考えられますので、秒針が止まった時点を周辺視野で知覚して、次に秒針が動く瞬間を予測して中心視野で見ていると、中心視野では知覚が遅れるので、次に秒針が動く瞬間の映像が見えるタイミングが予測よりも遅れ、その結果クロノスタシスの現象が起きるのではないかと考えられるのです。
視線を動かしていると、ある対象が中心視野で知覚されたり、周辺視野で知覚されたり、いつも変わると考えられます。この際の両視野での、視覚化の時間的な差によってクロノスタシス現象が起きているのではないかとも思われるのです。
秒針が止まった時点を周辺視野で知覚し、秒針が動いた瞬間を中心視野で知覚すると、周辺視野は30~40ミリ秒程度で視覚化し、中心視野は100~145(170~200)ミリ秒程度で視覚化するとした場合、その視覚化の差だけで60~110ミリ秒程度あると考えられますので、クロノスタシスの現象が起きる可能性があると思われるのです。