【前回の記事を読む】初めて味わった死への恐怖、死神を目の前にした男の運命は!?

第一章 死神

少女は解放され、そしてすぐに叫んだ。

「ウマル!」

弟に駆け寄る。

床に黒い染みが広がっている。少年の腹からは、大量の血が流れ出ていた。抱き上げると、少年の瞳が薄く開いた。

「お姉ちゃん……」

「ウマル!」

「ごめん、お姉ちゃん……。僕、お姉ちゃんを撃っちゃ……た。ガフッ!」

口から鮮血を多量に吐き出す。

(しゃべ)っちゃ駄目! ウマル!」

動揺する少女の横に、タンクトップの女がしゃがみ込み、傷口に手を当てた。すると少年の顔から笑みがこぼれた。

「痛みが消えていくよ……お姉ちゃん……」

少女は女が少年を治癒していると思った。その証拠に出血がみるみる止まっていく。

しかしそれは違った。

「ああ、母さんだ……父さんもい……る……」

少年は(うわ)(ごと)を言いながら、眼光から光が消失し、ゆっくりと瞼は閉じられた。

「……ウマル!?」

弟の胸に耳を当てた。鼓動が聞こえない。出血が止まったのは、心臓が止まったからだった。

少年の(からだ)から魂は離れた。その顔は安らかだった。

少女は涙を流し、弟を抱きしめた。

横にいる女は立ち上がり、二人に背を向けた。

「何故殺したの!? 弟を!」

立ち去ろうとする女に向かって叫んだ。少女にも弟が助からない事は理解できていた。でも、どうやっても助けたかった。

「私はお前達を助けに来た訳じゃない」

少女は弟を床に寝かせた。

「弟は……まだ死んでいなかった! 貴女(あなた)が殺した!」

少女は悲しみをぶつけようと、女に飛びかかろうとした。

「来るな!」

女の一喝に、少女は動きを止めた。

「……私に触れるな……」

その声には哀しい響きがこもっていた。悲痛にも似たその声を聞き、少女は何も言えなくなってしまった。

死神と呼ばれる女。

恐らく、その運命を背負ってしまった彼女は、これまで過酷な人生を歩いて来たに違いない。そしてこれからもずっと。

女は外に向かって歩き出した。

少女は孤独で悲しいその後ろ姿を、ただ黙って見つめていた。