第一章 空港にて
旅の恥はかき捨て──いやいや異国では個人の恥は国民の恥になる
これはUAE(アラブ首長国連邦)のドバイ空港で起こったことです。
一九七〇~八〇年当時のドバイ空港は現在のような世界有数の設備とスケールを誇る空港ではなく、ローカル空港といえる規模のもので、待合室は一ヵ所しかなく、搭乗客と乗り継ぎ客は同じ待合室を使っていました。
私は、会社規定の海外赴任者に対する日本への一時休暇を取得し、空港の待合室で私の乗る日本行きの便の到着を待っていました。そのとき、日本からの便が給油のために着陸し、ギリシャまたはオランダ方面へ向かう乗客たちが待合室に入ってきました。その中に明らかに日本人団体旅行客とわかる人たちがおり、他国の利用客も大勢いたにもかわらず、床に座り込んで酒を飲んだり、大声で騒いだりし始めました。
私の隣に席を占めていたイギリス人らしき子供づれの家族が眉をしかめているのがわかりましたが、私はよそを向いて知らぬ顔のハンベエを決めていました。そのうちに、一人の、何とも言いようのない中年のオバサンが、同じ待合室で待機中のアラブ人家族の目の前に行って、いきなり何も言わずにフラッシュをたいて写真を撮ってしまったのです。
当然、そのアラブ人のご主人が烈火のごとく怒り、アラビア語だったので意味は正確にわかりませんが、「無礼者! そのフィルムをよこせ」と言って、そのオバサンに詰め寄っていきました。そのオバサンは大声でキャーキャー言いながら待合室の中を逃げまわって、一時はどうなるかと心配になるほどでした。その団体の添乗員もいたはずなのに出てきませんでした。
しばらく経って、やっとそのアラブ人家族が諦めてくれたため、騒ぎはどうにか収まりました。その騒ぎの間にさきほどの隣の席のイギリス人が「彼らは日本人のようだが、あなたも日本人か」と聞いてきました。私は待合室の状況から、とても「日本人です」とは言えず、「韓国人です」と思わず言っていました。
教訓
最近でも国籍、年齢、性別に関係なく、公共の場所でのエチケットを守らぬ人が目に付きます。またイスラム教国では、今でも写真を撮ることには注意が必要です。特に成人女性は他人に写真を撮られることを大変嫌います。ましてそれが見も知らない外国人に断りもなく興味本位で写されたとなれば、怒るのは当然ですし、もし街中で、同様なことをした場合、極端なことを言えば命の保障はできませんということになります。
いまだに写真に撮られると命が削られると思っているお年寄りもまったくゼロではないと聞いています。また、撮影禁止の場所でうっかり写真を撮ったりすると、警察沙汰になることもありますので気をつけましょう。