ALS

「ALSの場合、TDP-43のタンパク質量とかで、推定されるのでしょうか?」

「それは、増えているということは分かっているんです。しかし、病気を快復させるために増えているのか、病状を悪化させるものなのか、それさえ分かっていません。もう、その辺でよろしいですか?」

「病気の原因が分からない。結局はそこに戻ってしまうということですか?」

私は堂々巡りをして、肝心な京子の延命期間を数字として聞き出せないでいた。

先生にとっては意味のない会話であり、時間が過ぎていくことに苛立ちを感じているらしく、ますます気分を害した顔になって、眼鏡越しに睨んできた。目と目が合うと息苦しくなるので、出来るだけ相手の鼻の辺りを見ることにしていた。

しかし、つい力が入って、二人で見つめ合ってしまった。もともとこの口髭の先生は、ラジカットについて積極的な推進者ではなく、患者の希望があれば取り入れる方針だという噂があった。

先生は私の目を見てから、面倒くさそうに書類に目を落として、少し沈黙したが、それでも急にとりなすように言った。

「まあ、いいでしょう。本題に戻りましょう。あなたの気持ちの確認を、先にさせてください。ラジカットの第六クール目以降も治療は続けますか?」

先生にとっては理不尽と言える追及をおうような心でかわして、一瞬で不機嫌から立ち直っているかのように見えた。

「他に助かる方法はないのでしょうか?」

私は居心地が悪くなりながらも、蒸し返した。京子の命がかかっていて、しかも、未だに延命された期間について答えを聞いていない。

延命効果に対する自分の納得度と京子の命の代理人としての責任感がごちゃごちゃになって、私の気持ちが前に押し出された質問だった。