「前にも申し上げましたが、すでに努力性肺活量が四十%に近づいており、このままいけば、呼吸不全に陥ることになります。いいですね!」
再度の念押しをした後、書類にレ点を付け、患者に伝えることの項目の確認を完了したようだった。
「え~えと、それとですねぇ、今日から、NPPV(マスク式の人工呼吸療法)の使用時間をできるだけ長くしたいので、睡眠時の使用時間の目標を上げましょう。同意いただけますね」
椅子に座ったまま身体をねじり、私が頷くのを見て、自信を取り戻したのか安堵の表情を浮かべて、さらに付け加えた。
「念押しになりますが、いいですか、奥さんとよく話し合い、今のNPPV方式のままか、TPPV方式にするか、次の第七クール目までに決定して、来院してください。そうしないと医師として、もう、責任が取れない段階に入っているということです」
椅子の背もたれが軋み音をたて、太い身体から不動の気迫が溢れ、強い言い方に変化していた。これが、面談の一番の目的だったのであろう。先生の顔が、私の中で強面から少しだけ親しみの持てる顔に変わってきた。
呼吸機能が著しく低下して、重度の呼吸障害に対応するためには、生命維持療法として、気管切開をしなければならない。
但し、呼気が声帯をバイパスして排出されるために、患者は声を失う。
私にとって、これが一番の恐怖であり、返事を引き延ばしてきた最大の理由だった。
しかし、もう引き延ばすことはできない。
的外れな怒りをぶつける私を、途中で投げ出すことなく、手を尽くして、本気で諭してくれたのだ。
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次回更新は12月19日(木)、21時の予定です。
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