正親町天皇より殿中にて、しかも直々に官位を授かるという異例中の異例の扱いで遇された儂を祝って、堺の豪商天王寺屋宗達が独客で茶の湯を振舞ってくれた。その十日後、その礼に信貴山城の茶室に天王寺屋宗達を独客として招き、朝から茶会を催した。
如月というのに、あえて土風炉を用いてみた。
「ほう、冬に風炉点前とは、霜台様もまた乙なことをしますなぁ」
「根が新し物好きでございますゆえ」
冬は炉(囲炉裏)を用いるのが常識で、本来は夏に用いる風炉に宗達は少し驚いた様子であったが、逆に面白がってもいた。
五徳に据えた手取釜と越前朝倉家から流れて来たという天目台とを並べて小板に乗せ、二つ置きのようにして見せた。天目台に乗る茶碗は黄黒色の高中茶碗である。
「霜台様は面白きお方ですなぁ。全く常識に囚われていらっしゃらない」
「身分の卑しきこの儂が主上から直々にお言葉を頂戴する時代です。これまでの常識は、もはや常識とは言えますまい」
「確かに……」
宗達は、ホホッと笑った。
水指は塗りの手桶。建水は曲げ物を用い、珠徳の手による象牙の茶杓で自慢の付藻茄子から茶を掬った。
「これが噂の九十九髪ですな」
「いかにも付喪神でござる」
宗達は、儂自らが演出した一見風変わりな趣向と、一級の茶道具と、儂の拙い点前にも満足して帰っていった。
一足遅れにはなったが、秋には三好長逸も日向守に任ぜられ、従四位下の位階も贈られた。