今の私の礎となった母の教え

私は、子ども時代に戦争に伴うケガや貧乏ゆえの病気などが蔓延していたことや、医者になれば金持ちになれるはずだ、と考えたことなどから医者になることを目指しました。そんな私の決心を、誰よりも強くサポートしてくれたのが母でした。試験にパスしたのは、高校時代から医者を目指した勉強を続けた私の努力に依るところが大きいといえます。しかし、戦後の貧しさの中で母が学費を工面してくれなければ、私が医者になることはできなかったでしょう。そういう意味では、今の私があるのは母のおかげなのです。

母が、私と弟に対して常々言って聞かせていたのが「男は敷居を跨またげば七人の敵あり」ということわざです。これは、「男は家から一歩外へ出れば、七人の敵がいる」ということで、社会に出て学ぶ、仕事をする、立身出世を目指す、ということには、常にたくさんの競争相手がついてまわり、妨害や敗北などがつきまとうといった内容です。母は特に高等教育を受けたわけでもない普通の女性でしたが、生きるうえで必要なさまざまなことを教えてくれました。「男は敷居を跨げば七人の敵あり」ということわざも、七人の敵に打ち勝って勝利をつかまなければならない、という心構えを教えてくれていたのです。

最近の学校は「個性を重視する」という名目で、勝ち負けや優劣をつけないようにするのだと聞いたことがあります。たとえば、徒競走などでも順位や勝敗をはっきりとつけず、あいまいなままにしておくこともあるのだとか。しかし、私は人間が人間である以上、常に勝者と敗者が存在すると思っています。誰かが勝てば誰かが負けるのは必然です。そんな中で、「負けたくない」「勝ちたい」と考えることは人間の生存本能とでもいうべきものだと思うのです。

もちろん、全てに勝ち続ける必要はありませんが、全てに敗北してもダメです。今の若い人たちにもぜひ、何でもいいので「これだけは誰にも負けない!」と胸を張って言えるような「何か」を身に付けてほしいと思います。