竹八さんは調理を楽しむ。おいしいものが好きなのだ。時々訪れる孫たちに手作りの料理を持たせて帰すのが竹八さんの楽しみ。

孫たちに自分と同じ苦労をさせたくない。喜んで受け取る孫の顔がたまらなくうれしい。孫が都合で来られなくなったときは、たくさん作った手料理を近所の皆さんにおすそ分けする。

「イヤだぁ! 六十代の私たちが、九十代の竹八さんから、ごちそうになるのは逆でしょう!」

ご近所の奥さんたちは驚き恐縮するが、ありがたくいただく。と、竹八さんのお料理はこれまたおいしい! 手を抜かず、お手本通りに、丁寧に作られていて、煮物、天ぷら、カレー、混ぜご飯、手打ちうどんといただくたびに、料理は様々、まったく主婦顔負けの出来栄えなのである。

竹八さんは若いころは「どじ!」「のろま!」と親方から怒鳴られ、仲間からも不器用な奴とは組みたくないと敬遠された。それでも愚直にがんばり、人付き合いも良く、話好きなことで、愚図な奴だが憎めないと、仲間外れにされずに生きてきた。年を取るとますますその性格に磨きがかかり、わずか数百メートルの買い物の道のりでも、あちらの奥さん、こちらの爺さんと次々と話相手と会い、おしゃべりに花が咲く。スーパーの店員さんとも顔なじみ。

「良い筍を取り寄せておきましたよ」

今日も威勢の良い声を掛けられる。今夜は筍ご飯にしようか、手押し車のかごには材料もしっかり入っている。帰り道の途中、少々疲れて手押し車に腰を掛け、日向ぼっこをする。そよ風が吹いて気持ち良い。すると、自転車の男性が竹八さんのところで止まり、立ち話が始まる。

「へえっそうかい、それは知らなかったねえ」

新しい話のネタが増えていく。のどかな春の午後、穏やかに時が過ぎてゆく。きっと百歳を過ぎても元気に手押し車を使って買い物に行くことだろう。竹八さんはご近所のアイドルだ。その生き方上手に、老いても竹八さんのように明るく生きたいものだと、皆が憧れの目で見ているのである。