私は経験上、人間の行動タイプもアリのごとく一定の割合で分布すると実感している。本章の文脈から言えば、カリキュラムを旧システムから新システムに移行させたとしても、導入当初はともかく、新システムが組織に定着すれば早晩そこから離脱する学生は必ず2割程度存在してしまう。

それと同時に、どんなカリキュラムシステムを構築しても「水を得た」魚の如く意欲的に動く学生は必ず2割程度存在し、残りの6割がその場の雰囲気に応じて動きを変える。そして、その割合で安定的に推移することになるだろう。

教育者にとって大事なことは、目の前にいる学生が2・6・2のどこに属しているかを見極めることである。その上で、2・6・2に応じた対応をシステムとしてどう構築すればいいのか?この点を意識的に検討する時期に来ているのではないだろうか。

ちなみに、ビジネスの世界において2・8の法則に類した80対20の法則というものがある※2。これ自体はヴィルフレド=パレートが提唱した法則で、国民の所得や資産の分布が不均一であることを述べたものである。この傾向がさまざまな努力とその成果との対応関係にも観察される(たとえば、利益の80%は20%の顧客からもたらされる)ことから、この法則を企業内の生産性向上のための指針として活用するべきだとの主張が見られる。

これを援用するならば、所与のカリキュラムシステムで自在に動く学生のために資源を投入するべきだという提言が可能である。ただ、教育という公益性の高い分野において、この提言では離脱する学生を放置することになりかねない。ますます厳しくなる大学経営にあって、離脱学生を放置することはそのまま組織維持の危機に直結する。そういう事情から、さまざまな大学で離脱学生の対応策が模索されている。次章ではこの点について検討する。

※1:長谷川英祐『働かないアリに意義がある』メディアファクトリー新書、2010年。

※2:Koch, R., “The 80/20 Principle: The Secret of Achieving More with Less”, Nicholas Brealey Publishing, 2007.(仁平和夫・高遠裕子(訳)『(新版)人生を変える80対20の法則』CCCメディアハウス、2011年)