除退予備軍をあぶり出せ!?

はじめに

前章では、導入講義のシート上で実施した『ランキング調査』を起点にして、本学部の学生がどんなコース選択をしてきたのかを追跡調査した。その結果、同時に実施した基本演習の『希望調査』との相関関係が見られず、導入講義の狙いが学生に十分伝わっていないことが確認された。一方、『希望調査』を起点にすると、基本演習から専門演習へと一貫したコース選択をした学生群が約2割、専門演習に所属しない形でコース選択を事実上放棄した学生も約2割それぞれ存在することも確認された。

以下、本章では学生が除籍や中途退学となる状況を除退、除退となった学生を除退者とよぶことにするが、コース選択を事実上放棄した学生の中に除退者が多く含まれると思われる。序章で述べた通り、高等教育がユニバーサル段階になるに伴って、これまで想定していない学生層が在籍するようになる。そして、彼らが従来のカリキュラムシステムとのミスマッチを引き起こし、除退の形で大学を去るケースが目につき始めている。また、2020年1月からの新型コロナウィルスの感染拡大の影響もあって、経済上の理由から就学が困難になる状況もより深刻になりつつある。

少子化がより深刻化し、文科省による定員管理の厳格化要求が二転三転する中、除退者に対する対策・支援を充実させなければ2つの意味で大学運営に多大な影響を与える。

第1は、学校法人会計上の学生生徒納付金のうち授業料や施設料など(以下、学納金と略記)の低下である。たとえば、私立文系学部における年間の学納金は概ね100万円である。在籍者数5,000人の私立文系大学だとざっと50億円の学納金が得られる。ここから5%の在籍者が除退したとなると2.5億円の学納金低下をもたらす。この低下分は入学者の割り増しで対応しにくい中でかなりの痛手である。在籍者に占める除退者の割合(除退率)の上昇を放置すれば収益構造が悪化し、教育サービスの充実もおぼつかなくなるだろう。

第2は、ブランド力の低下である。高等教育の大衆化と情報公開が同時進行する中、除退率はその大学のトータルな教育の質を表す代理変数となる。その中で除退者が増加すれば、《キャンパス内に居場所を見出せない大学》《学生に対する面倒見が良くない大学》などのレッテルが貼られ、それが大学のブランド力低下につながりかねない。ブランド力の低下は志願者の減少を引き起こし、いわゆる定員割れをもたらす可能性すらある。これを放置すれば大学運営が更に悪化するのは言うまでもない。