もうひとつ、冬になると必ず思い出す名句へのオマージュで
いくたびも雪の深さを尋ねけり 正岡子規
いくたびも月の明るさ語りけり
次に、他の人が句会に出した句をきっかけに、作句した例を二つ挙げよう。
塩むすびの句(字句は覚えてない)にヒントを得て
新涼の多摩の瀬音や塩むすび
蘭陵王の舞を詠んだ句(字句は覚えてない)に惹かれて
蘭陵王の舞う指先に銀漢ぞ
両句とも、句会に出された句とは似ても似つかぬので、盗作とされる怖れはない。
③本に知恵を借りる
ひらのこぼの『俳句発想法一〇〇の季語』(草思社文庫)という本がある。例句を挙げ、ある季語がどのような発想で使われているかが書かれており、投句用の句数が不足している時重宝だ。
例えば、「風光る」という季語で作ろうとする。この季語は、この本の最初に出てくるが、例句ごとに、その季語と相性の良い事象は何かを説明している。私の記憶では「風光る」の場合、何か動く物と取り合わせたり、指や手に焦点を絞って人を光らせるとよいとあった。私は、そのヒントに忠実に従うことにした。思い浮かべたイメージは、打楽器のコンサートで見た和太鼓奏者である。撥を握り太鼓を打つ奏者(動く物)と、高く上げた右手のストップモーションに焦点をあてた。演奏場所は戸外に移した。
太鼓打ち右手を高く風光る
私はここまで話し続けて疲れたので、季節感の説明は端折って、立ち上がろうとしたら、立村が手を上げた。
「ちょっと待てよ。二番目の季節感はどうなんだよ」
この三人、私の話をしっかり聞いている。メモなんかとるなよ、緊張するじゃないか。