でも周辺視野ではこの視覚の詳細化の処理が必要ないため、視覚化が速いのではないかと思われるのです。周辺視野だけを考えてみますと、どんなに速く視線を動かしても、周辺視野は不連続にはならず、常に連続的に見えていることを実感できます。まずこのことが、視界がいつもリアルタイムに見えていることに関係しているのではないかと考えています。

ちなみに周辺視野では視覚化が速いと考えられる一つの例として(これは周辺視野が動きに対する感度がいいということもあってだと思いますが)、野球でピッチャーが投げる球を周辺視野でとらえたほうが、中心視野でとらえるよりも、バッターは球を打ちやすいということがあるようです。

次に周辺視野での視覚の成立に時間がかからないと考えられることの理由についてですが、これには記憶情報との照合という点が関係していると思います。私達はふつう、注意を向けているのは中心視野においてであって、周辺視野はその付随的な状態ということはよくあると思います。ふだん中心視野に注意が向いていて、中心視野での記憶情報との照合は厳密に行われるわけですが、その際の周辺視野での記憶情報との照合にはそれほど負荷がかかっていないように思われます。

むしろ中心視野に注意が集中しているときに、周辺視野での視覚映像に記憶情報との照合がどの程度なされているのか、つまり、常に周辺視野全体において、記憶情報との照合が詳細になされているのかどうか、ということになると思います。もちろん、周辺視野のある部分に注意が向けられた場合は、その部分での記憶情報との照合というのは精密に行われるとは思いますが、いつも周辺視野の全体に注意が行きわたっているというわけではないように思われます。

つまりふだん周辺視野の全体が意識にのぼっているというわけではなく、注意が向けられた部分(だけ)が意識される、周辺視野の中で注意が向けられた領域が記憶情報との照合がなされ、それとほぼ同時に意識されるというわけです(つまり周辺視野では、注意が向かない部分は記憶情報との照合はされていない、視線を向けた時点では、まず少なくとも有効視野の外側では、記憶情報との照合はされていないということと考えています)。

ただ、周辺視野は見え方が不明瞭なので、トップダウン的な認識となり、ボトムアップ的な厳密な記憶情報との照合というのはもともと難しいといえるかと思います。基本的に記憶(長期記憶)の中にある映像というのは、ほとんどが中心視野かその周辺の有効視野でのもので、有効視野よりも外側の周辺視野での映像というのは、ふつうは記憶されていないように思います。

したがって、周辺視野においての記憶情報との照合といっても、もとは中心視野または有効視野で記憶された情報との照合ということになると思います。このように周辺視野では、記憶情報との照合という処理での負担があまりかからないと思われ、このことからも視覚の成立が速いのではないかと考えられるのです。認識を実際の文脈という側面からとらえると、中心視野では常に文脈に則していますが、周辺視野は注意が向いて意識された時点で文脈に入るということと考えています。