視覚誘発電位の測定
次にパターン反転刺激ではなく、文字と顔の認識についてお話しします。文字と顔の認識は(身体の認識もとのことですが)、一般の物品や景色などの認識とはややちがうということかもしれませんが、文字、顔、(身体)の認識に特異的に関連した脳領域があると考えられています。この脳領域は、文字と顔に関しては、下側頭葉の後方にある、紡錘状回といわれる部位です。
まず文字(漢字や仮名)刺激が視覚的に提示された場合について簡単にお話しいたします。文字の認識に関しては、まず一次視覚野V1で処理されたのち、音韻的に認識される(発音から認識される)経路と、形態的に認識される経路(視覚的イメージ)に分かれるといわれています。漢字は主に形態経路で、仮名は音韻経路と形態経路の両方で処理されるとのことです。
形態的な認識の経路は、さきほどの下側頭葉の後方の紡錘状回にある視覚性単語形状領域(visual word for marea:VWFA、文字認知に関連する脳領域)に送られます。視覚誘発電位の測定からは、文字が提示されると、まず後頭部(V1と思われます)に100ミリ秒後に電位が生じ、その後、VWFA近傍で左側(左脳側)優位に約170ミリ秒で電位が生じるとのことです。
このことから推測されることは、漢字を見た場合、その認識には170ミリ秒くらいかかっていると考えられることです。これは、漢字がその意味とともにはっきりと知覚されるのに、170ミリ秒くらいかかっていると考えられる測定結果といえます。
次に顔の認識についてお話しします。顔認知に関連する脳領域として、やはりさきほどの下側頭葉の後方の紡錘状回顔領域(Fusiform face area:FFA)が知られています。顔刺激が提示されると、100ミリ秒後の後頭部V1の電位のあと、FFA近傍の後頭側頭溝から約170ミリ秒後に電位が記録され、さらにFFAから約200ミリ秒で電位(他の測定方法です)が記録されます。
やはりこのことから、誰かの顔を見たとき、その顔が認識されるのには(おそらく顔自体の形態的な認識に)、少なくとも170ミリ秒くらい、さらにはっきりとした認識(おそらくはその人が誰であるのか、知っている人なのか、など)には200ミリ秒くらいはかかるということではないかと考えられます。
ここでさきほどの疑問、つまり、理論的には見えるのに時間がかかっているはず、タイムラグがあるはずなのに、見た時点でリアルタイムに、視線を向けたと同時に見えたように感じるのはなぜかということですが、このことを考える前に、視野ということの理解が必要と思いますので、まず視野についてお話ししようと思います。