中心視野と周辺視野
ちなみに、運動視といわれる、動きをとらえる視覚機能がありますが、とくにoptical flowといって、自分が動くことによって周囲の景色が変わっていくような場合に生じる動きでは、例えば車を運転しているとき、前方の車のあたりは中心視でとらえていますが、周囲全体の景色は自分に近づいて広がっていくように見えています。
この周囲の景色が広がっていくような、放射状の動きを視覚的にとらえることで、自分が前に進んでいるという知覚が得られますが、この動きは狭い中心視野だけでとらえることはできません。周辺視野で広い範囲でとらえることで知覚できるものです。このように周辺視野も重要な機能をもっています。
中心視野と周辺視野との共働によって、さまざまな状況に的確に対応した視覚が得られているものと思います。例えば建物(家など)を見たとき、全体的な形態は周辺視野でとらえられ、さらに中心視で局所を詳細にとらえるという共働的な認識が、瞬間的に行われていると考えています。
ちなみに私達はふだん、周辺視野で、あれ、と気になるところに、すばやく目や頭を動かして、気になった対象を中心視でとらえようとしています。この、すばやく中心視を移動させ、瞬間的に対象をとらえる眼球の動きをサッケード(急速眼球運動)といいます。
周辺視野で、ある対象に注意が向くと、150~250ミリ秒で眼球が動き、その対象を中心視でとらえます。サッケードは、速くても1秒間に3回ほどといわれ、いったん視線が対象に向けられると、次のサッケードの開始には200ミリ秒程度必要で、その間は不応期といわれます。この約200ミリ秒間は、対象に視線を固定する(固視)ということとなります。
ちなみにふだん私達が、まわりの景色が全体的に明瞭に見えているように感じるのは、サッケードなどによって、いつもあちこちに視線を移動させて、周囲全体を中心視野でとらえているからでしょう。ここで、視覚がいつも連続的で、視線を動かしても常にリアルタイムに見える理由の一つに、周辺視野での視覚の成立、周辺視野での見え方が速いということがあると思います。中心視野では対象を高解像度でとらえるために、対象が詳細(明瞭)に見えるまでの視覚処理(視覚の詳細化、または明瞭化と表現しようと思います)に時間がかかっているはずだと考えられます。それなのに視線を向けたと同時にリアルタイムにはっきり見える(ように感じる)のはなぜなのかという疑問がここで生じるわけです。