太一は若いが如才がなく、商人仲間では頼りにされている存在なので、誰彼となく情報を教えてくれると言う。だから、藩中でも指折りの情報通だった。砂糖は贅沢品で課税の対象になっている。

その砂糖が正規の認可量以上に大量に運び込まれていると言うのだ。徴税逃れの疑惑があるならば、調べる必要がある。

さらに、運び込まれてくる経路については不明であるが、仮に海上で瀬取りして、荷を藩内に持ち込んでいるとすれば、藩の海防に穴があることになる。隼人は由々しき問題だと、難破した異国船の戦闘能力を調べて以来、海防に力を入れている軍奉行の萱野軍平を呼んだ。

萱野軍平はまだ若く、疲れを知らない猪突猛進型で、思い立つと後先構わず行動に移す性格だった。家老の新宮寺宅を辞すると、その足で、海防方組頭の宇美野正蔵の役宅に自ら足を運んだ。

「宇美野殿、抜け荷の話を御存じありませんか」

「抜け荷?」

宇美野には聞いたことのない話だった。

海上での抜け荷の事実があるとすると、海防にも関わるかもしれず、責任を問われかねない。

「いや、はっきりしたことはわかっていないのですが、城下に大量の砂糖が出回っているらしく、それが御家老の耳に入ったのです」

萱野軍平は年上の宇美野に丁寧な言葉を使った。

萱野軍平が軍奉行になりたての頃はずいぶんと無茶を言ってきた。でも、できないものはできないと、わけを言って断ると、素直に聞く耳をもっていた。宇美野は萱野のそういうところが気に入って、年下であるが親しくしている。

変わり者の萱野はなぜだか妻帯せず、いまでは、暇があると宇美野家に顔を出し、妻女の手料理を楽しんで帰ったりする。萱野は早くに両親を亡くしたせいで、母親の味を求めていたのかもしれない。特に冬につける蕪かぶら寿しとか、太い午蒡の治部煮とかが大好物だった。

萱野軍平から勢戸屋の抜け荷の疑惑を聞いた宇美野は、勢戸屋が抜け荷の荷を持ち込むとしたら、やはり大量の物資が運び込まれる金崎港だろうと、直ちに、舟で粗衣川を下った。

金崎港を取り仕切っているのは、舟手奉行の神かんな流豪右衛門という幼馴染であるが、城下から離れているので、近頃はめったに会うことはない。そんなで、旧交を温めるには良い機会だと思ったのもある。

抜け荷の荷が普通の荷と一緒に運ばれているのなら、海防に何ら問題がない。宇美野と神流はしばらくの間、港に入って来る荷を監視した。

金崎港で上げ下ろしされる荷はすべて申告されているから、それとの比較で、ときどき、抜き打ちに荷改めもしたが、何も見いだせなかった。特に、勢戸屋が扱う荷には注意したが、それも問題はなかった。